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少年呪術師  作者: 森新児
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第42話 キノコ採りとシジュウカラ

 ぼくがあらためて作戦の全貌を説明し、それが終わるとフランチェスコがその場にいるみんな、ぼくとAとユイとカラミル、それにサンジに告げた。


「打倒X作戦はあした決行する。

 早朝ぼくに協力してくれるカトリック信者の車で山頂に向かう。機材もそのときいっしょに運ぶ。午前中に機材のセッティングを終える。セッティングはAさん、あなたが頼りです」


「まかせて」


「午後リハーサルをやって夜本番だ。サンジさん、あなたは本番直前にいらしてください。榊家の人があなたを車で運んでくれます。それまで自宅でくつろいでください」


「わかりました」


「一回のステージで一気にかたをつける。質問をどうぞ」


「作戦考えたのはダーリンなのにえらそうに……」


「やめろよ」


 ぼくがたしなめるとカラミルはふて腐れたように横を向いた。


(やっぱり吸血鬼とエクソシストの相性は最悪だな。カラミルの両親はエクソシストに殺されたそうだし、これはいっしょにバンドやるのは無理かな……)


 とぼくは案じたが、フランチェスコは挫折知らずのエリートらしい、さわやかな笑みを浮かべてカラミルに声をかけた。


「カラミルさん、あなたにあしたユイさんが着る衣装をコーディネートしてほしい」


「ママの服を借りるわ。ユイ、あとでわたしのうちにきて。いっしょにかわいい服さがしましょ」


「は、はい」


「ゴシックな衣装を頼みます」


「わかってるわよ、うるさいわね」


「それは失礼。さて、大切な話はたとえ話でしろとイエスがいった。その教えにぼくも従う。こんな昔話がある」


 フランチェスコは金色の髪をかきあげた。


「むかしあるところに若いキノコ採りがいた。キノコ採りは毎日森へ行った。

 彼が森へ行くといつも近くの木に青いはねのシジュウカラが止まった。はねの模様でそれがメスのシジュウカラとキノコ採りにはわかった。

『ピーチピーチおはようございますキノコ採りさん』

『おはようシジュウカラさん』

 朝行っても、昼行ってもシジュウカラはあらわれた。

『ピーチピーチこんにちはキノコ採りさん、今日はおそいですね』

『こんにちはシジュウカラさん、寝坊しました』

『きのうの夜お酒を飲んだのですか?』

『いいえ』

『女の子と遊びましたか?』

『いいえ』

『ではなにをしたんですか? ウソをついたら絶交です』

 キノコ採りはシジュウカラと絶交したくなかったから、恥ずかしいのをがまんして『詩を書いていました』と正直にいった。

『どんな詩を書いたのですか? 教えてください』

 キノコ採りはまた恥ずかしいのをがまんして自分が作った詩を読んだ。それは愛についての詩だった。

『ピーチピーチすばらしい』

 シジュウカラははねをふるわせ、若い彼が作った詩をほめたたえた。

『お礼にわたしは歌いましょう』

 といってシジュウカラはいろんな鳴き声で歌を歌った。ほめられたのがうれしくて、キノコ採りはその日も家に帰って詩を書いた。

 翌日キノコ採りは森へ行ったがシジュウカラはあらわれなかった。

 翌日もあらわれなかった。

 その翌日森へ行くと、いつもの場所に青いはねが一枚落ちていた。

 キノコ採りははねをひろい、あのシジュウカラが死んだことをさとった。





 生命には終わりがある。

 だから悔いが残らぬよう、愛するものが生きているとき精一杯愛せというのがこの昔話の教訓だ。

 このままなにもしなければ、ぼくらが愛する人々の生命は終わる。それは宇宙からやってきた生命体がもたらす、尊厳も感傷もなにもない無惨な死だ。ぼくたちだけがその運命を変えられる。戦うことで運命を変えるんだ。みんなぼくといっしょに戦ってほしい。

 ぼくにも愛する人がいる。

 いや、いた」


(フランチェスコ?)


 驚いた。

 とっさに言葉を飲み込んだフランチェスコの美貌が、一瞬だがぎょっとするほどはげしく歪んだから。


「……みんなきっと愛するだれかがいるはずだ。どうかその人のために……お願いします」


 フランチェスコは深々と頭をさげた。

 彼の目はすこし赤くなっていた。


「戦います」


 と最初にサンジがいった。


「戦うよ」


 とぼくが続いて「戦うわ」「わ、わたしも」とAとユイが告げる。


「……わかったわよ」


 みんなに見つめられ、カラミルはお手あげといいたげに肩をすくめた。


「わたしも戦うわ。その代わり仕事が終わったらみんなに千疋屋のアイスクリームおごってちょうだい。Aには最高級のマタタビを出して。それが条件よ」


「承知しましたシニョリーナ」


 フランチェスコはエレガントに頭をさげ、それからぼくを見た。


「ところで三郎くん、あしたのステージでどんな曲をやるかまだ聞いてないけど、もう決めた?」


「もちろん。人類最大の文化遺産で宇宙からの珍客をもてなしてやる」


「えーと、人類最大の文化遺産ってなに?」


「そんなの決まってる」


 ぼくは胸を張って美貌のエクソシストに告げた。


「ヘヴィメタルだよ」





 ●


「うまくいったわ」


 三郎の家を出て平井邸へ向かう夜道を歩いていたら、ふいにとなりでカラミルがそんな独り言をつぶやいた。


「な、なにが?」


「あしたの作戦に仲間入りできたことよ。わたしが最初から乗り気な態度だったら、あの生意気なエクソシストに拒否されたはずよ。だからわざとやる気のないそぶりを見せてあおったの」


 地震でかたむいた古い家のこわれた屋根を見あげ、カラミルは笑った。


「は、はじめからやる気だったの?」


「そうよ」


「ど、どうして? とっても危険な仕事なのに」


「危険だからやるの。危険とデカダンスとアイスクリームはわたしの大好物だもの。大丈夫よユイ。あなたとダーリンはきっと守ってみせる。わたしにはターミネーターの血が流れているから」


「た、ターミネーター?」


「わたしの故郷のグラッツはアーノルド・シュワルツェネッガーが生まれた土地なの。ターミネーターに守られてると思ったらこころ強いでしょ?」


「き、吸血鬼に守られるのもこころ強いです。その気になった吸血鬼は無敵だって三郎くんがいってました」


「まあ。でも心臓をつぶされたらさすがにわたしも生きていられないけど」


「し、死ぬの?」


「ええ。もちろんわたしはアステカのイケニエとはちがう。宇宙からやってきた礼儀知らずなよそものにむざむざ心臓をささげたりしないわ。わたしは享楽主義の吸血鬼。以前ダーリンに死に場所を用意してっていったけど、あれは自分の生をより輝かせたいからそういっただけ。死ぬ気なんてないわ」


「せ、生の輝き?」


「そう。死を内包していない生の輝きはイミテーションゴールドにすぎない。生は死によってはじめてリアルに輝くの。さ、いそぎましょ。ママが子どものころ着ていたドレスがうちにある。きっとあなたに似合うわ。あら」


 廃墟と化したビルの窓から、路上にひらりと一匹の黒ネコが飛びおりた。

黒ネコは不吉の予兆と人はいう。

 でも黒ネコのあどけない表情や、そのネコを抱きあげ笑うカラミルのキュートな表情を見ていたら胸がきゅんとなって、不吉な予兆とかそういういやな言葉はどっかに飛んで消えてしまった。





 ■


 金峰山(きんぽうざん)は熊本市の西にそびえる、熊本の市民にもっとも親しまれた山だ。

 標高六六五m。

 山のふもとに夏目漱石の小説『草枕』に登場する峠の茶屋や、宮本武蔵が五輪書を書いたどうくつ霊厳堂(れいがんどう)がある。

 ぼくが大好きな作家山田風太郎は忍法帖の最高傑作『魔界転生』で霊厳堂を舞台に、臨終の武蔵が幕府転覆をねらう怪しい者どもに術をかけられ、聖なる剣豪から地獄の魔人と化す名場面を書いている。

 その金峰山のさらに西側にもう一つ山がある。

 名前を道目鬼山(どうめきさん)という。


 市の中心部から見ると金峰山のかげにかくれ、その山容はまったく見えない。

 標高六六五mはとなりの金峰山と同じで猿すべりといわれる急斜面もそっくり。

まるで金峰山の影のような山だ。

 事実陰気な山で、登山客どころか野生のイノシシさえここにはめったに近づかない。

 道目鬼山は飛鳥時代から修験者や呪術師が修行する霊山だ。

 もしかしたら人々がこの山に抱く負のイメージは、山で孤独に修行する山伏や呪術師を見たむかしの人が感じた畏怖の念のなごりかもしれない。

 山は今は榊家が管理している。

 ぼくたち、ぼくとフランチェスコとカラミルとA、そしてユイは山の頂上にある道目鬼神社の拝殿にいた。

 時間は六月十四日火曜日深夜〇時のすこし前だった。


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