第11話 サバトの主催者
ここは道場じゃない処刑場だとさとったとき、ゴトンとにぶい音がした。
ハンドスピナーを持っていた美津子さんの右手が床に落ちた。
次に左手が、その次に左足が、最後に右足が外れ、イモ虫になった美津子さんはうつ伏せに床に倒れた。
「ヒヒヒヒ」
竜は爪先で美津子さんの脇腹を小突いた。
「やめなさい」
「女はかならずうつ伏せに倒れるんだよな。おっぱいが重いから。ヒヒヒヒ」
「きれいで仕事ができて強くてお高く止まってて生意気な女はどんな声で泣くのかのお」
「やめて!」
ズボンを脱ごうとする宮沢を見て美津子さんは悲鳴をあげた。
「やめなさい!」
「すっげえ」
脱皮したヘビのようにシャツのそでを引きずり、お尻をくねくね振って必死に逃げる美津子さんを見おろし竜は大喜びした。
「どエロいケツ」
「竜、女を押さえろ」
「そらよ」
竜ははだしで美津子さんの背中を踏みつけた。
「むぐ!」
美津子さんは顔を真っ赤にしてあえいだ。
「おっぱいがぐにゃっとつぶれる感触が伝わってきた。ヒヒヒヒ」
「むむ」
「いい女の苦しむ顔はなんど見ても飽きんのお」
「この盃を……」
ぼくは小声で呪文を唱えた。しかし
(あれ?)
おかしい。
山彦を放ったのに宮沢になんの変化も見られない。
(てことは、術の使い手は宮沢じゃないってこと?)
「そのまま押さえとれよ」
そう息子に命じ、宮沢はストンとズボンをおろした。そのとき
「サンチャゴ」
まただれかが奇怪な言葉をつぶやいた。同時に
「おや?」
宮沢の体躯がストンと縮んだ。
両足が外れたのだ。
「おやじ?」
と不審そうにつぶやき、竜はその場を離れると酔っぱらいのようにフラフラ歩き、壁にぶつかってその場にしゃがんだ。
竜の両手と両足が床に落ちている。
「あの、えーと」
両手も失い、まぬけなカブト虫のようにあお向けにひっくり返った宮沢が愛想笑いを浮かべていった。
「どうしたのかな? 山田くん」
「おまえらは下品でだめだ」
宮沢の問いかけに苦笑いで答えたのは宮沢の秘書で義肢装具士でもある山田だ。
「せっかく予想外の獲物を手に入れたのに」
冷酷な表情で美津子さんを見おろし、山田は舌なめずりした。
美津子さんの冷や汗まみれの体にシャツや下着がべったり張りつき、女性らしい曲線美があらわになっている。
「扱い方をわかってない」
(こいつがサバトの主催者だ)
ぼくは衝撃を覚えながら恐るべき術の使い手を見あげた。
このときが、ぼくと悪魔のファーストコンタクトだった。
「これはあなたのしわざなの?」
「そうだ」
美津子さんの問いに山田はうなずいた。
「痛みを与えることなく人間の手足を外す。これがわたしの術だ。名をブラック・ダリアという。サンチャゴ」
もう一度山田が奇妙な呪文をつぶやくと、床でモゾモゾうごめいていた宮沢父子が同時に失神した。
「目ざわりなブタども」
憎々しげに吐き捨てる山田を見ながら考えた。
(サンチャゴってポルトガル語だな。イエスの弟子で十二使徒の一人聖ヤコブをポルトガル語でサンチャゴと呼ぶ。それからポルトガル軍が戦争のとき合い言葉としてサンチャゴを用いたこともある)
「なぜそんな術を使うの?」
「イケニエをささげるんだよ。
サルバドールに」
(サルバドール?)
またポルトガル語だ。ヘブライ語のメシア。意味は救世主。
「わが主は顔がきれいでグラマーな女性がお好みだ。
きみのような」
山田は魔風の速さで美津子さんに襲いかかった。
うつ伏せになっていた美津子さんを背後から抱えあげ、片膝立てて彼女の胴体を力強く抱きしめる。
「むろんわたしも好きだよ」
「離して!」
「ああ、いい匂いだ」
美津子さんの汗まみれの首筋に顔を寄せ、山田は犬のようにクンクン鼻を鳴らした。
「やめてやめなさい!」
「腐る直前の果物のような匂いがする。とても濃厚な甘い匂いだ。わかるかねお嬢さん」
美津子さんを抱きしめ山田はいった。
「これは恐怖の匂いだ。わたしが捌いた女は最期にみんなこの匂いを発した。これを見なさい」
山田は美津子さんの鼻先に刃物をかざした。
「見えるかね。お嬢さん」
「……」
「見えるかい?」
山田は刃物の脇腹で美津子さんの頬をヒタヒタ張った。
「み、見えます」
美津子さんの全身がガタガタふるえだした。
「これはなんだ?」
「メスです」
「なんに使うものだ?」
「手術で患者さんの体を切るのに、使います」
「わたしはこのメスを使ってきみをどうすると思う?」
「……」
「答えろ」
山田はまたメスで美津子さんの頬を張った。
「わ、わかりません」
「考えろ。答えがなければメスをきみの鼻の穴に突っ込む」
「わ、わたしの体をそのメスで、切ると思います」
美津子さんの目から涙がこぼれた。
「そうだ。どこを切ると思う?」
「……わかりません」
「教えてやろう。このメスで、きみのお尻の皮を剥ぐ」
山田はメスをふところへ納めると、あいた手で美津子さんのお尻を撫でた。
「あ、いや」
「たっぷりと豊かな重さがあってしかも張りがある。すばらしい尻だ。そら」
「いやあ!」
山田は美津子さんの下着を一気に引き剥がした。
濃い陰毛が見えた。
山田はあらわになった美津子さんのお尻を撫でまわした。
「お願いです、やめてください……」
「肌が手に吸いついてくる。うっとりするほどなめらかだ。若く健康な女だけがもたらす奇跡の手ざわりだ。これは剥がしがいがある。どれ」
山田は尻を撫でていた手を美津子さんのシャツの裾に突っ込んだ。
しばらくすると乾いた音がして白いブラジャーが床に落ちた。
山田はシャツの上から美津子さんのおっぱいを揉んだ。
「すばらしい。胸が大きい女は感度がにぶいという俗説があるが、あれはまちがいだ。きみの場合は腰のくびれが感度のするどさをあらわしてる。その証拠に乳首が立ってる」
山田はシャツの突起をなぞるように、指先でそっと撫でた。
「こんな状況なのに感じるのかね? まったく女というのは恥知らずな生きものだ」
「やめて……」
「わたしは皮を剥がすパーツはいつも一ヶ所と決めているが、今回は特別に尻と乳房の二ヶ所の皮を剥ぐとしよう。いい記念になるぞ。さて、最後に性器を調べさせてもらうよ。蜜壺の締まり具合や肉襞の質感を確認したい。どんなかな……」
「助けて三郎くん」
「フフ、きみのように成熟した美女が無力な子どもに救いを求めるなんて、実に哀れでゾクゾクするよ」
「この盃を受けてくれ」
「え?」
山田の体が急に大きくかたむいた。
「なんだ?」
床に転がった自分の左足を山田はふしぎそうに見つめた。
「なんだこれは?」
「どうぞなみなみ注がしておくれ」
そこで山田の体がストンと縮んだ。こんどは右足が外れた。
「花に嵐のたとえもあるぞ」
「お、おい」
左手が外れた。
「さよならだけが」
「やめろ!」
「人生だ」
最後に右手が外れた。
美津子さんがうつ伏せに床に倒れ、彼女の剥き出しのお尻の上に山田の顔がべちゃりと落ちた。
「これは、おまえがやったのか!?」
美女のお尻から猛然と顔をあげ、山田は吠えた。
「そうだよ」
手足が外れたままのぼくは床から浅く顔をあげて笑った。
「秘術山彦。相手の術をコピーしそのまま相手に返す。
女子高生の幽霊に教わったぼくの得意技だよ」




