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昼下がりの学園庭園は、穏やかな陽光に包まれていた。そこには王子フェリクス・ヴァルモンを中心に、リリア・エヴァレットと数人の側近たちが集まっていた。その光景は、学園中の注目を集めるに十分だった。
王子は気品ある姿勢を崩さないまま、リリアに何かを話しかけている。その声は柔らかく、彼の特有の自信に満ちた笑みを浮かべていた。リリアは小さく頷きながら、王子の言葉に耳を傾けているが、その表情には少し戸惑いが混じっている。彼女の魅力的な微笑みと、控えめながらも人懐こい雰囲気が、まるで彼女が場の中心にいるような錯覚を生み出していた。
その横には、アラン・ド・モントレイユが控えていた。リリアの後ろに立ち、何かを察するように目を光らせている。普段の冷たい雰囲気は少し和らぎ、リリアに向ける表情は穏やかで親密なものだった。
時折、リリアが小声で話しかけると、彼は微かに微笑みながら応える。その仕草は、他の生徒たちにはまるで彼が彼女の保護者であり、頼れる味方であるかのように映っていた。
さらに、王子の他の側近たちもその場に加わっていた。彼らはそれぞれが気配りのある態度でリリアに話しかけ、彼女が緊張しないよう場を盛り上げていた。その一人が冗談を言うと、リリアは少し恥ずかしそうに微笑み、王子もそれに続いて笑みを浮かべる。
その光景を遠くから見ていた他の生徒たちは、ざわめきながら噂話に花を咲かせていた。
「あれ、完全にリリア嬢の逆ハーレムじゃない?」
「王子が彼女を特別扱いするのは分かるけど、公爵令息のアラン様まであんなふうに付き従うなんて……」
「しかも、王子の側近たちまでリリア嬢に親切だなんて、信じられない!」
「婚約者であるカトリーヌ嬢がどう思っているのか、気になるわ……」
囁き声があちこちで聞こえる中、誰もがその場の中心にいるリリアを見つめていた。彼女が浮かべる一つ一つの仕草が、まるで光を集めるように人々の関心を引き寄せている。
「……あれ、どう思う?」
セリーヌはジュリアの声にハッとし、視線をそちらに向けた。ジュリアは鋭い目つきでその場を観察しながら、軽く肩をすくめる。
「あの光景、まるで芝居みたいじゃない?リリア嬢はお姫様役で、王子たちが騎士を演じてるみたい。」
セリーヌは苦笑いを浮かべたが、胸の奥では複雑な感情が渦巻いていた。特に、リリアの後ろで優しげに佇むアランの姿が、どうしても目から離れなかった。
ジュリアの隣でヴィクトールが軽く吹き出す。
「王子はもちろんだけど、アラン様まで巻き込むなんて、リリア嬢には一体どんな魔法があるんだろうね?僕も教えてほしいくらいだよ。」
その冗談にジュリアが呆れたように笑い、セリーヌも小さく微笑んだ。しかし、その笑顔の裏には、言いようのない寂しさが隠れていた。
遠くで人々の注目を集め続けるリリアと、その周りを取り囲む王子と側近たち。彼らの存在は、まるで特別な世界を作り出しているかのようだった。そして、その世界に自分がどれほど遠い存在かを、セリーヌは改めて感じるのだった。




