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もう、今更です  作者: つむぎ


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8/10

8


学園の昼食の時間は、いつも華やかでざわめきに満ちていた。貴族たちのテーブルには、それぞれ婚約者たちが揃い、優雅な談笑が繰り広げられている。セリーヌはそんな光景を横目に見ながら、ジュリアの声に導かれるようにいつものテーブルへ向かった。


「セリーヌ、遅いわよ!」


ジュリアが楽しげに手を振る。その隣では彼女の婚約者、ヴィクトール・デュランがニコニコと笑いながら席を勧めていた。


「さあさあ、お姫様の到着だ!今日はどんな話題で盛り上がろうか?」


ヴィクトールの賑やかな声に、セリーヌは思わず微笑みを浮かべた。彼の陽気な態度には、いつも救われるような気がしていた。


「遅れてごめんなさい。少し用があって……」


「いいのよ、セリーヌ。ほら、座って!あなたがいないと、この場がちょっと寂しくなるのよ。」


ジュリアが手を引いてセリーヌを隣の席に座らせる。その間もヴィクトールは料理の皿を彼女の前に並べ、軽口を叩き続けた。


「セリーヌ、今日は特別に僕が料理を選んでおいたよ。見てくれ、この完璧なセンスを!ここのローストビーフは絶品なんだ、でもスープも忘れちゃいけない。さあ、遠慮しないで食べてくれ!」


「ありがとう、ヴィクトール。あなたのおかげで毎回楽しい食事になるわ。」


セリーヌの言葉に、ヴィクトールは誇らしげに胸を張った。


「当然さ!婚約者とその親友を喜ばせるのも、僕の大事な仕事だからね!」


「でも、婚約者よりもセリーヌに気を遣ってるんじゃない?ヴィクトール。」


ジュリアが腕を組んで、わざとらしく眉を吊り上げた。ヴィクトールは慌ててジュリアに向き直る。


「いやいや、ジュリア、君が一番に決まってるだろう?でもね、君の親友だって特別なんだよ。僕たちのこの愉快な三角関係が、学園で一番楽しいって有名なんだから!」


「その『三角関係』は、あなたの頭の中だけよ。」


ジュリアが肩をすくめると、ヴィクトールは大げさに手を広げて笑った。その光景に、セリーヌもつい笑いを堪えられなくなる。


昼食の時間は、セリーヌにとって一日の中で最も穏やかなひとときだった。婚約者との冷たい距離感に傷つきながらも、この場にいるとその痛みを一時的に忘れることができた。


「それにしても、今日の夜会の話、聞いた?」


ジュリアが少し声を低くして話を振った。ヴィクトールも興味津々な顔をして耳を傾ける。


「王子のリリアへの態度、ますます目に余るって噂よ。王妃様も、とうとうお怒りになられたとか。」


「それだけじゃないぞ、ジュリア。聞いたところによると、あのアラン様もリリア嬢をエスコートするのが常になってきてるらしいじゃないか。」


その言葉に、セリーヌの胸が一瞬だけ締め付けられた。それでも笑顔を崩さないように努める。


「本当に目立つ存在になっているのね、リリアさん……」


「目立つどころか、火薬庫みたいな存在よ。いつか爆発しないか、周りの皆がヒヤヒヤしてるの。」


ジュリアの言葉に、ヴィクトールが笑いを交えながら茶々を入れる。


「その日が来たら、僕たちは安全な場所に隠れる準備をしておくべきだな!」


二人の明るいやり取りに、セリーヌも笑いながら軽く頷いた。その笑顔の奥にある複雑な感情を、二人は知らなかった。

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