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煌びやかなシャンデリアが輝く夜会の会場には、すでに華やかな衣装を纏った貴族たちが集まり、音楽と笑い声が満ちていた。けれども、セリーヌの胸は重く沈んでいた。婚約者のアランが迎えに来なかった事実が、いつものように彼女を傷つけていた。
「大丈夫だよ、姉上。」
隣に座るルシアンが柔らかく微笑みながら言った。彼は背筋を伸ばし、伯爵家の一員としての誇りを見せている。
「君はリヴィエール家の誇りだ。誰が何を言おうと堂々としていればいい。」
セリーヌは弟の言葉に救われながらも、会場へと足を踏み入れた。人々の視線を感じながらも、彼女は気丈に歩みを進めた。
王子フェリクス・ヴァルモンは、義務を果たすようにカトリーヌ・ベルフォールの手を取ってエスコートしていた。その表情には退屈の色が濃く、何度も周囲に視線をさまよわせている。明らかに、彼の心はここにない。
一方で、アラン・ド・モントレイユはリリア・エヴァレットを優しく導きながら、彼女を気遣う様子を見せていた。リリアは緊張した面持ちだったが、彼の落ち着いた態度に少しずつ微笑みを浮かべるようになっていた。その姿は、周囲の噂をさらに掻き立てていた。
セリーヌはその光景を遠くから見つめ、胸の奥がまた少し痛むのを感じた。それでも、今夜はルシアンの隣に立つ自分を守るため、感情を表に出さないよう努めた。
「セリーヌ!」
明るい声が響き、セリーヌは振り返った。そこには、鮮やかな赤のドレスを纏ったジュリア・ルフェーヴルが立っていた。その手を引く男性にセリーヌは目を留める。
「ご紹介するわ、私の兄、エドモンよ。」
「お会いできて光栄です、リヴィエール嬢。」
エドモン・ルフェーヴルは静かに微笑み、セリーヌの手を取り軽く口づけをした。彼の穏やかな目には、ジュリアとはまた異なる大人びた優しさが宿っている。
「ルフェーヴル卿、こちらこそお会いできて嬉しいです。」
セリーヌは少し緊張しながらも礼儀正しく答えた。エドモンの物腰は柔らかく、それでいてどこか掴みどころのない雰囲気があった。
「妹がお世話になっているようですね。感謝しています。」
「いえ、私の方こそジュリアさんにはいつも助けられています。」
セリーヌとエドモンが挨拶を交わしている間も、ジュリアは軽口を叩いてその場を和ませていた。ルシアンも加わり、四人の間に温かい空気が生まれる。
それでも、セリーヌの視線は時折、遠くでリリアに寄り添うアランへと向いていた。その度にエドモンがさりげなく話題を振り、彼女を引き戻してくれるのだった。
「さあ、夜は長いですよ。踊らない理由はありませんね。」
エドモンが冗談めかして微笑むと、セリーヌは少しだけほっとしたように頷いた。彼の言葉が、冷えた心を少しずつ温めていくようだった。




