踊るポエマー1
サロンの午後は、優雅な笑い声と紅茶の香りに包まれていた。
セリーヌとジュリアのサロンは、今や貴族社会の中でも一際洗練された空間となり、集う令嬢たちの顔ぶれも変わりつつあった。ただの社交の場としてではなく、彼女たちはここで新たな知識を得て、自らの未来を考え始めている。
「隣国で働いているリリア嬢に手紙を書いたの。ようやくお返事が届いたのよ」
リリアの話題が出ると、場の空気が自然と明るくなる。
「まあ、リリア嬢のお手紙! どんなことが書かれていたの?」
「研究室での仕事はとても充実しているそうよ。最初は貴族女性がそういった職に就くことに懐疑的な人もいたみたいだけれど、今では彼女の実力を認める声が増えてきたそうよ」
「素晴らしいですわね。彼女のような方がいるおかげで、私たちも少しずつ考えを改めるきっかけになるわ」
「ええ、でも……それを快く思わない人たちもいるそうよ」
ふと、サロンの隅で会話していた令嬢の一人が声を落とす。
「快く思わない……?」
「女性が学び、社会に出ることを妨害しようとする勢力があるって、最近噂になっているの」
サロンの中が少しだけ静まる。
「噂だけれどね。女性は家庭を守るもの、貴族女性が働くなんて恥ずかしいことだって、そういう考えの貴族たちが集まっているらしいの」
「……やっぱり、そういう反発もあるのね」
セリーヌは小さく息を吐いた。
「何もかもがすぐに変わるわけじゃないわ。でも、少しずつでも前に進まなくてはならないのよ」
「そうですわね。けれど、こうした動きがもっと広がれば、いつか女性たちの立場も変わるかもしれません」
「私も考えていたの。父に頼んで、家の経営に少しずつ関わらせてもらえないかって」
「まあ、素敵!」
「夫を支えるだけではなく、自分でも知識を持って、家のことを考えたいの」
「それなら、私も……!」
令嬢たちの間で、少しずつ意識が変わり始めていた。
そんな会話の中、もうひとつの大きな話題が上がる。
「……それにしても、王宮の動きも急に慌ただしくなりましたわね」
「ええ。ついに、王が崩御されたと……」
「そして、王妃様は王宮を離れるとか」
「お隠れになるそうですわね。もう王宮には戻られないと」
「王妃陛下は、ずっとフェリクス殿下の復権を望んでいたけれど、もはやそれも叶わない……。それが決まったとき、もう王宮にはいられないとお考えになったのでしょうね」
「結局、第二王子殿下が即位されることになりましたわ」
「レオナール殿下なら、落ち着いた統治をなさるでしょう。フェリクス殿下のような混乱は、もう起こらないはず」
サロンの令嬢たちは、王宮の変化にも敏感だった。
そして、それに関連してもう一つの話題が浮上する。
「そういえば、エドモン様は最近お忙しそうですわね」
セリーヌが微かに微笑みながら頷く。
「ええ。カトリーヌ様とともに、新しい体制の準備に尽力しているわ。王宮の安定を支えるために、貴族たちとの交渉にも関わっているの」
「まあ、そんな大事な役割を……!」
「やはり、ルフェーヴル家は今後の貴族社会において重要な立場になるのでしょうね」
セリーヌはエドモンのことを誇らしく思いながらも、最近の彼の忙しさを案じてもいた。
(毎日遅くまで王宮に残り、貴族たちと交渉を続けている……。)
彼の負担にならぬよう、せめて自分にできることをしなくては――そう改めて思う。
令嬢たちは、こうして新しい時代へ向けて、少しずつ羽ばたこうとしていた。
そして、その流れに待ったをかけようとする者たちもまた、動き出していた。
サロンの空気は穏やかで、華やかな午後のティータイムは変わらず続いていた。




