表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう、今更です  作者: つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/52

14

夕暮れが静かに街を包み込む頃、セリーヌとエドモンはサロンの一角で、穏やかに語り合っていた。窓の外ではオレンジ色の陽が沈みかけ、暖かな光が室内を優しく照らしている。


テーブルには、彼女の好きなフルーツティーと、エドモンが選んだブラックティーが並び、二人はそれぞれのカップを手にしていた。


「最近のサロンは、以前にも増して活気があるようだね」


エドモンが微笑みながら言うと、セリーヌはカップを揺らしながら頷いた。


「ええ。貴族の女性たちが、少しずつ新しい世界に目を向けるようになってきているわ。リリア嬢やカトリーヌ様の話題が出るたびに、彼女たちも自分たちの未来について考え始めているのを感じるの」


「君のサロンが、貴族女性たちにとって新しい可能性を示している証拠だね」


「それなら、嬉しいのだけれど」


セリーヌはティーカップを置き、そっとため息をついた。


「でも、時々不安にもなるの。女性たちが知識を深め、自立を目指すのは良いことだと思うわ。でも、それを良く思わない人たちがいるのも事実でしょう?」


エドモンはカップを持ち上げながら、ゆっくりと首を振った。


「確かに、変化を嫌う者もいる。でも、どんな時代でも、新しい流れは最初は受け入れられにくいものだ。君たちのサロンが成功していることが、その証明でもある」


「そうね……」


セリーヌは彼の言葉に安心したように微笑んだ。


「あなたがいてくれて、本当に良かったわ」


エドモンは少し目を細めながら、彼女の手を優しく包み込んだ。


「そう言ってもらえるなら、僕も嬉しいよ」


その手の温かさに、セリーヌはふっと微笑む。


「……結婚式の準備、そろそろ本格的に進めないといけないわね」


「そうだね。もうすぐ正式に日取りを決める頃だ」


「あなたはどんな式が理想なの?」


「そうだな……君が笑っていれば、それだけで完璧な式になる」


「また、そういうことをさらっと……」


セリーヌは呆れたように笑いながらも、頬がわずかに染まる。


「じゃあ、私が一番素敵な笑顔を見せられるように、最高の式にしましょう」


エドモンは微笑みながら、彼女の手にそっと口づけた。


「もちろん。君が幸せでいられるように、僕は全力を尽くすよ」


窓の外には、ゆっくりと夜の帳が降り始めていた。


二人の未来を優しく包み込むように――。






アラン・ド・モントレイユは、サロンの表にある植え込みの前でしゃがみ込んでいた。貴族らしからぬ姿勢で、指先を土に軽く触れさせながら、小さな葉を一枚ずつ丹念に探している。


すでに指には三本の四つ葉のクローバーが握られていた。


「……あと一本」


静かに呟き、彼はじっと目を凝らした。


四つ葉のクローバーは、幸運の象徴。セリーヌのために四本集めれば、何かが変わるかもしれない――そんな、根拠のない考えが彼の頭を支配していた。


思えば、昔もこうして何かを願いながら、幼いセリーヌを遠くから見つめていた気がする。今になって、彼女の幸せを「見守る」などと美しく言い繕いながら、こんなことをしている自分が可笑しくなる。


(……フェリクス様と僕は違う)


再び、自分に言い聞かせる。


フェリクスは妄想に囚われ、ありもしない愛を信じ続けた。


だが、自分はセリーヌの幸せを現実として見ている。彼女がエドモンとともに歩む未来を受け入れ、それをただ見守る。それが自分の役目だ。


「……見守る、ね」


自嘲気味に呟いた瞬間、視線の端に四枚の葉を持つ小さなクローバーが目に入った。


「あった」


指先でそっと摘み取ると、アランは満足げに微笑んだ。


四つ葉のクローバーが四本。完璧だ。


これをセリーヌにそっと渡せば、きっと幸せが続くだろう。彼女の未来は、今以上に輝くに違いない。


彼は立ち上がり、服の埃を軽く払った。


そして、サロンの窓越しにセリーヌとエドモンが穏やかに語らう姿を見つけた。


セリーヌは、エドモンの手を取って笑っていた。その顔は、かつて自分と婚約していた頃には見せなかったほどの、柔らかく温かな表情だった。


胸が苦しくなる。


それでも、彼は握りしめた四つ葉のクローバーを、そっとポケットにしまった。


(……やめておこう)


今、これを渡せば、それはまるで「未練」の証になってしまう。


「僕は、違う」


その言葉を呟きながら、アランは静かにその場を離れた。


ポケットの中で、四つ葉のクローバーが微かに揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ