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昼休み、学園の庭は学生たちで賑わっていた。柔らかな陽光が花壇を照らし、木陰には小さな笑い声が響いている。セリーヌはジュリアと一緒に歩きながら、ふと視線を向けた先で、一際目立つ一団を見つけた。
王子フェリクス・ヴァルモンとリリア・エヴァレット。二人はまるで絵画の中の登場人物のように、周囲の視線を独占していた。
フェリクスはリリアの隣に立ち、その穏やかな表情には、彼女への明らかな好意が滲んでいる。彼の視線を受けるリリアは、どこか困惑したようにうつむきながらも、彼の言葉に頷いていた。まるで二人だけの世界がそこに広がっているかのようだった。
その横にはアラン・ド・モントレイユが立っていた。普段の冷淡な態度からは想像もつかない、柔らかな笑みを浮かべている。その笑顔はリリアに向けられており、まるで彼女の守護者であるかのような佇まいだ。
「……あれを見て、どう思う?」
ジュリアが低い声でささやき、セリーヌの視線を追った。セリーヌは唇をかみしめながら答えた。
「……何も。」
「何もってことないでしょ。あの組み合わせ、完全に注目の的よ。悪い意味でだけど。」
ジュリアはわざとらしく肩をすくめ、遠くから二人を観察する。庭にいる他の学生たちも、さりげなく二人を気にしているのが分かる。その視線には冷ややかなものや、好奇心に満ちたものが混ざっていた。
「王子がリリアに夢中なのは有名だけど、アラン様まであんなふうに付き従うなんて。セリーヌ、正直に言いなさいよ、気にならないの?」
セリーヌは答えなかった。視線を落とし、足元の芝生をじっと見つめたまま立ち止まる。胸の奥で何かが痛むのを感じていた。だが、その感情を口にすることはできない。
「……大丈夫よ、セリーヌ。」
ジュリアはセリーヌの腕にそっと触れ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私がついてるわ。あんな馬鹿げた光景に負ける必要はないでしょ?」
セリーヌはようやく顔を上げた。その目には微かな涙の光が浮かんでいたが、ジュリアの励ましに応えるように、小さく微笑んだ。
「あの二人がどれだけ注目を集めても、あなたにはあなたの道があるわ。覚えておきなさい。」
ジュリアの言葉を心に刻みつつ、セリーヌは再び前を向いた。しかし、その歩みの中で、胸の痛みが消えることはなかった。王子とリリア、そしてアランの三人が織り成す光景は、彼女の中に冷たい影を落とし続けていた。




