8
セリーヌとジュリアのサロンは、貴族社会において確かな地位を築いていた。開業当初こそ「令嬢たちの道楽」と軽んじる者もいたが、次第にその格式の高さと実用性が認められ、貴族たちの間で人気を博すようになっていた。
このサロンは単なる社交の場ではなく、知識や文化を共有する空間として機能していた。貴族女性たちはここで最新の政治情勢や経済の動向を学び、芸術家たちは作品を披露し、思想家たちは新たな潮流を語る。これまで「華やかさ」だけが求められていた貴族の社交界に、確かな知性と品格をもたらす場となっていた。
その名声が広がるにつれ、ついにある日、カトリーヌ・ベルフォールがサロンへ訪れることになる。
その報せに、サロン内は静まり返った。
カトリーヌは、いまや貴族社会において確固たる影響力を持つ存在であり、王家の混乱の中でも毅然とした態度を崩さなかった。そんな彼女が、ついにこの場を訪れる――。
迎えの準備が整えられた午後、カトリーヌは静かにサロンの扉をくぐった。
薄紅色のドレスを身にまとい、優雅な所作で進む彼女の姿に、そこにいたすべての者が息をのむ。圧倒的な気品と落ち着いた雰囲気をまといながらも、その瞳には鋭い知性が宿っている。
「お招きいただき、光栄ですわ」
彼女は淡く微笑みながら、静かにそう言った。
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」
セリーヌは礼を取り、ジュリアもまた親しげに微笑む。
「カトリーヌ様、ようこそ。お待ちしておりましたわ」
カトリーヌは室内を見渡し、満足げに頷いた。
「噂には聞いておりましたが……想像以上ですわね。これほど洗練された空間を作り上げたお二人には、心から敬意を表します」
それは決して社交辞令ではなかった。サロンの雰囲気、そこに集う貴族たちの品格、交わされる会話の知的な深み――すべてが、従来の夜会とは一線を画していた。
「ここでは、皆が対等に言葉を交わし、学び合えるのですね」
「そのつもりで作りました。貴族女性もまた、社交だけでなく、知識や経験を積み、社会に関わるべきだと考えております」
セリーヌの言葉に、カトリーヌは少し目を細めた。
「素晴らしい理念ですわ」
ゆっくりと椅子に腰を下ろし、用意された紅茶に指を添えながら、彼女は続ける。
「貴族社会も変わりつつあります。王家の権威が揺らぐ中で、貴族たちもただ従うだけでは生き残れない。個としての知性と判断力が求められる時代が来るでしょう」
カトリーヌの言葉に、室内の貴族たちが静かに頷く。彼女の発する一言一言には、重みがあった。
「セリーヌ、ジュリア。あなた方のこのサロンは、ただの社交の場ではありません。新たな時代の礎になり得るでしょう」
「……恐れ入りますわ」
セリーヌは内心、驚きを隠せなかった。
カトリーヌは、いまや貴族社会の未来を見据え、その動きを左右する立場にいる。その彼女が、この場を認めたのだ。
「ぜひ、またお越しくださいませ」
セリーヌの言葉に、カトリーヌはゆるく微笑む。
「ええ。ここには、学ぶべきことが多くありますもの」
そう言って、彼女は紅茶を口に運んだ。その姿は、まるで一つの時代を超越したかのような優雅さを湛えていた。




