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もう、今更です  作者: つむぎ


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36/52

8

セリーヌとジュリアのサロンは、貴族社会において確かな地位を築いていた。開業当初こそ「令嬢たちの道楽」と軽んじる者もいたが、次第にその格式の高さと実用性が認められ、貴族たちの間で人気を博すようになっていた。


このサロンは単なる社交の場ではなく、知識や文化を共有する空間として機能していた。貴族女性たちはここで最新の政治情勢や経済の動向を学び、芸術家たちは作品を披露し、思想家たちは新たな潮流を語る。これまで「華やかさ」だけが求められていた貴族の社交界に、確かな知性と品格をもたらす場となっていた。


その名声が広がるにつれ、ついにある日、カトリーヌ・ベルフォールがサロンへ訪れることになる。


その報せに、サロン内は静まり返った。


カトリーヌは、いまや貴族社会において確固たる影響力を持つ存在であり、王家の混乱の中でも毅然とした態度を崩さなかった。そんな彼女が、ついにこの場を訪れる――。


迎えの準備が整えられた午後、カトリーヌは静かにサロンの扉をくぐった。


薄紅色のドレスを身にまとい、優雅な所作で進む彼女の姿に、そこにいたすべての者が息をのむ。圧倒的な気品と落ち着いた雰囲気をまといながらも、その瞳には鋭い知性が宿っている。


「お招きいただき、光栄ですわ」


彼女は淡く微笑みながら、静かにそう言った。


「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」


セリーヌは礼を取り、ジュリアもまた親しげに微笑む。


「カトリーヌ様、ようこそ。お待ちしておりましたわ」


カトリーヌは室内を見渡し、満足げに頷いた。


「噂には聞いておりましたが……想像以上ですわね。これほど洗練された空間を作り上げたお二人には、心から敬意を表します」


それは決して社交辞令ではなかった。サロンの雰囲気、そこに集う貴族たちの品格、交わされる会話の知的な深み――すべてが、従来の夜会とは一線を画していた。


「ここでは、皆が対等に言葉を交わし、学び合えるのですね」


「そのつもりで作りました。貴族女性もまた、社交だけでなく、知識や経験を積み、社会に関わるべきだと考えております」


セリーヌの言葉に、カトリーヌは少し目を細めた。


「素晴らしい理念ですわ」


ゆっくりと椅子に腰を下ろし、用意された紅茶に指を添えながら、彼女は続ける。


「貴族社会も変わりつつあります。王家の権威が揺らぐ中で、貴族たちもただ従うだけでは生き残れない。個としての知性と判断力が求められる時代が来るでしょう」


カトリーヌの言葉に、室内の貴族たちが静かに頷く。彼女の発する一言一言には、重みがあった。


「セリーヌ、ジュリア。あなた方のこのサロンは、ただの社交の場ではありません。新たな時代の礎になり得るでしょう」


「……恐れ入りますわ」


セリーヌは内心、驚きを隠せなかった。


カトリーヌは、いまや貴族社会の未来を見据え、その動きを左右する立場にいる。その彼女が、この場を認めたのだ。


「ぜひ、またお越しくださいませ」


セリーヌの言葉に、カトリーヌはゆるく微笑む。


「ええ。ここには、学ぶべきことが多くありますもの」


そう言って、彼女は紅茶を口に運んだ。その姿は、まるで一つの時代を超越したかのような優雅さを湛えていた。

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