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もう、今更です  作者: つむぎ


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3/9

3


朝の冷たい空気がまだ町に残る頃、アランは伯爵家の門前に現れた。その姿は凛々しく、完璧な服装と姿勢に抜かりはない。それでもセリーヌにとって、彼が迎えに来ることは儀式のようなものだった。形式だけが重んじられ、そこに温かみは感じられない。


「おはようございます、アラン様。」


セリーヌが挨拶をすると、彼は軽く頭を下げただけで返事をすることもなく、馬車の扉を開けて彼女を促した。


馬車の中はいつも通り静かだった。車輪の音が石畳を叩くリズムが耳に心地よいのか、彼は外の景色をぼんやりと眺めている。


「昨夜、家族に夜会の件を相談しました。」


セリーヌの声に、アランはゆっくりと顔を向けた。無表情のまま軽く顎を動かす。


「それで?」


「……弟のルシアンがエスコートを申し出てくれました。それをお伝えしようと思って。」


「そうか。」


それだけを言って、再び彼は視線を窓の外へ戻した。セリーヌは心の中で息をついた。この薄い反応は予想していたが、それでも胸が少し痛む。


やがて馬車が学園に到着し、扉が開かれる。アランは無言で先に降りると、セリーヌが続くのを待ちもせずに校舎の方へ歩き出した。


「ここで失礼する。午後の講義には戻る。」


「わかりました。」


短い別れの言葉を残して、アランは王子のいる方向へ向かっていった。その姿を見送りながら、セリーヌは足元を見つめた。


「今日もこれか……」


小さくつぶやいて、彼女は自分の教室へ向かう。扉を開けると、明るい声が彼女を迎えた。


「セリーヌ!今日も美しいじゃない!」


ジュリア・ルフェーヴルが席から身を乗り出し、悪戯っぽく笑いながら手を振っている。小柄で華やかな顔立ち、そして何よりその軽快な言葉で、彼女は学園中の注目を集める存在だ。


「おはよう、ジュリア。」


「ねえ、聞いたわよ。ルシアン坊やが夜会であなたをエスコートするって?」


「……どこからその話を?」


セリーヌは驚いて目を丸くしたが、ジュリアは得意げに鼻を鳴らした。


「私の情報網を甘く見ないで。王子がリリアを連れ出すって噂と一緒に、あなたの話も流れてたわよ。」


「本当にどうしてそういうことに敏感なのかしら……」


「それが私の特技だから!でも大丈夫よ、セリーヌ。ルシアン坊やのエスコートなら、どんな舞踏会でも安心でしょ?」


ジュリアはウィンクしながら笑い、セリーヌの肩に軽く手を置いた。その言葉の明るさに、セリーヌは少しだけ気が楽になった。


「……ありがとう、ジュリア。」


彼女の笑顔を見ながら、セリーヌは自分も前を向いていこうと静かに思った。

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