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学園中が王子の婚約破棄とリリアの叫びに揺れる中、セリーヌはジュリアとともにいつもの場所で昼食を取る準備をしていた。ざわめきと噂話が学園中を満たしているが、彼女たちはそれを意識しないふりをしていた。
そこに、アラン・ド・モントレイユが静かに現れた。いつものように冷静で整った姿だが、その顔にはかすかな焦りが見えた。
「セリーヌ、昼食を一緒に取らないか?」
突然の誘いに、セリーヌは手を止めて顔を上げた。これまでほとんど学園内で一緒に行動しなかったアランが、わざわざ自分を誘いに来るなど考えられないことだった。
「……え?」
彼女が戸惑う隙もなく、横にいたジュリアが間髪を入れずに口を開いた。
「あら、アラン様。今日は珍しいわね。王子の側じゃなくてセリーヌに付き添うつもり?」
その言葉には明らかな皮肉が込められていたが、アランは顔色一つ変えずに答えた。
「君には関係のないことだ。セリーヌに話をしている。」
その冷淡な返答に、ジュリアは目を細めた。
「関係あるかどうかは私が決めるわ。それにしても、こんな騒ぎの中で、まさか貴方まで婚約破棄を宣言しに来たわけじゃないでしょうね?」
その直球の問いかけに、周囲にいた生徒たちも思わず息を飲んだ。昼食を始めようとしていた者たちの視線が一気にアランとセリーヌに集まる。
「ジュリア!」
セリーヌが慌てて声を上げたが、ジュリアは全く動じる様子を見せなかった。
「だって、そうじゃない?貴方たち二人が一緒にいる姿なんて、ほとんど見たことないのに。急にこんな時だけ接近するなんて、タイミングが良すぎるわ。」
アランの眉がわずかに動いた。それでも、声には冷静さを保ちながら答えた。
「婚約破棄をするつもりなどない。セリーヌは僕の婚約者であり、それは変わらない。」
「へえ、そうなの?」
ジュリアは皮肉っぽく笑いながら腕を組んだ。
「それならもっと早く、そういう態度を見せればよかったんじゃない?今さら取り繕っても遅いんじゃないかしら。」
「ジュリア!」
セリーヌは再び彼女を制しようとしたが、ジュリアの目には強い意志が宿っていた。彼女はセリーヌの肩に手を置き、静かに言った。
「セリーヌ、あなたが何も言えないなら、私が言うわ。アラン様が今さら婚約者としての役割を果たそうとするのは、王子の件で周囲が騒いでいるからよ。それを本当に信じられるの?」
その言葉に、セリーヌは何も言えなかった。彼女自身、アランの態度が本心から来ているのか、それとも周囲の目を意識したものなのか、確信が持てなかったのだ。
アランはしばらくジュリアの視線を受け止めていたが、やがて小さく息をつき、セリーヌの方を見た。
「セリーヌ、僕は君と話がしたいだけだ。これ以上、邪魔をされるつもりはない。」
その言葉に、ジュリアが肩をすくめた。
「邪魔だなんて心外ね。まあ、いいわ。セリーヌ、あなたが決めなさい。」
セリーヌは視線を落とし、しばらく沈黙していた。そして、ゆっくりと顔を上げ、静かに言った。
「……ジュリア、ごめんなさい。少しだけアラン様とお話ししてきます。」
ジュリアは少し驚いたようにセリーヌを見たが、すぐに微笑を浮かべて肩を軽く叩いた。
「いいわよ。後で戻ってきたら全部聞かせてね。」
ヴィクトールが後ろで軽く手を振り、「健闘を祈る!」とおどけた声を投げかけたが、セリーヌはそれに応える余裕もなく、アランとともにその場を後にした。
アランと並んで歩きながら、セリーヌの胸には依然として冷たい重石が乗っているようだった。彼女はこの時間が、また空虚な会話に終わるのではないかという不安を抑えきれずにいた。




