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もう、今更です  作者: つむぎ


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2



セリーヌはサロンを後にすると、重い足取りで自室に戻った。夜会のエスコートがないとなれば、家族に相談せざるを得ない。だが、それはセリーヌにとって気が進む話ではなかった。


夕食の後、家族が揃ったタイミングで彼女は意を決して口を開いた。広々としたダイニングには暖炉の火が揺らめき、いつものようにリヴィエール伯爵家の和やかな空気が漂っている。


「お父様、お母様、少しお話があるのです。」


リヴィエール伯爵がワインのグラスをテーブルに置き、穏やかな表情で娘に目を向けた。


「どうした、セリーヌ。改まって話とは珍しいな。」


「次の夜会の件なのですが……アラン様が、私をエスコートする予定はないとおっしゃいました。」


その言葉に、伯爵夫人の眉がわずかに動いた。彼女はナプキンを丁寧に畳みながら、冷静な声で問いかけた。


「エスコートがない、ですって?どういうことかしら。婚約者である以上、あなたを伴うのが当然のはずよ。」


「それが……リリア嬢をエスコートするとおっしゃっていました。」


「王子の『真実の愛』の相手とされている、あの方か。」


伯爵が低い声でつぶやいた。彼の顔には不快感がにじんでいる。セリーヌはその表情を見て、さらに肩を縮めた。


「このままでは、私は一人で夜会に出ることになります。それでは伯爵家の立場に傷がついてしまいますわ。」


沈黙が流れる中、弟のルシアンがナイフとフォークを置き、話に割り込んだ。


「姉上、その夜会に俺が付き添うというのはどうだろう?」


「ルシアン?」


セリーヌは驚いたように弟を見つめた。彼は微笑を浮かべながら肩をすくめた。


「俺だってリヴィエール家の一員だ。この家の名誉を守るためなら、少しくらい兄のように振る舞うことも悪くないと思うけど。」


「ルシアン、あなたはまだ若すぎるわ。夜会で姉を支えるには少し荷が重いのではなくて?」


伯爵夫人が少し険しい声で返したが、ルシアンは意に介さずに続けた。


「若いからこそいいじゃないか。王子や公爵家の注目が集まる中で、姉上をしっかりエスコートすれば、むしろ伯爵家の印象が良くなるかもしれない。」


ルシアンの言葉には熱意があった。それを聞いていた伯爵が深く息をつき、静かに頷いた。


「……確かに、他に良案もない。ルシアン、お前に任せることにしよう。」


セリーヌは安堵と少しの戸惑いが入り混じった表情で弟を見た。


「本当に大丈夫かしら、ルシアン?」


「大丈夫だよ、姉上。任せておいて。」


頼もしい言葉に、セリーヌは微笑みを返した。夜会への不安は完全には消えなかったが、少なくとも一人ではないことに救われた気がした。

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