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「もう、迷惑なんです!!」
リリア・エヴァレットの悲痛な叫びが、庭園に響き渡った。その声には、抑えきれない感情が込められていた。これまで控えめでおとなしいと評されていた彼女が、その場で感情を爆発させたことに、周囲の生徒たちは息を飲んだ。
王子フェリクス・ヴァルモンは、驚きのあまり目を見開いたままリリアを見つめている。隣に立つアランや側近たちも、予想外の事態に動けずにいた。
「私、ずっと悩んでいました!王子の好意を光栄に思わないわけではありません。でも、私は中流貴族の娘です。断れるはずがないのに、あなたの気持ちを無視することなんてできないのに……それでも、こんなの耐えられない!」
リリアの目には涙が浮かんでいた。その声には、これまで一人で抱えてきた苦悩が溢れ出ていた。
「学園では周りから好奇の目で見られ、側近の皆様にまで囲まれて……まるで見世物のようです。どうしてこんなことになるんですか?私はただ普通に過ごしたいだけなのに!」
その場の空気は張り詰め、誰もがリリアの言葉に圧倒されていた。彼女の涙ながらの訴えは、冷静だったカトリーヌでさえ一瞬驚かせた。
「リリア……」
王子は呆然と立ち尽くしながら、彼女に手を伸ばした。しかし、その手は空中で止まる。リリアの目は、今や王子を見ていなかった。
「リリア、君がそんなふうに思っていたなんて……」
「どうして分かってくれないんですか!こんな形で注目されることが、どれだけ私にとって苦痛なのか、どうして考えてくれなかったんですか!」
リリアの声が震えた。王子は言葉を失い、足元をふらついた。その時、隣に立っていたアランが素早く手を伸ばし、王子の肩を支えた。
「殿下、落ち着いてください。」
アランの冷静な声が響く。彼の顔にはわずかな困惑が見えるものの、どこかリリアに対する理解の色も滲んでいた。
周囲の生徒たちはただ静かにその光景を見つめている。セリーヌも、ジュリアとヴィクトールの隣で動けずにいた。
「……リリア嬢、本当に限界だったのね。」
ジュリアが静かに呟く。その声には皮肉も驚きも含まれていない。ただ、リリアの叫びが彼女の心に響いていることを物語っていた。
「王子が思い詰めるのも分かるけど、そりゃ、リリア嬢だって人間だ。こんな状況、耐えられる方がどうかしてる。」
ヴィクトールが軽く息をつきながら言う。セリーヌはそんな二人の言葉を耳にしながら、リリアの姿を見つめていた。
彼女の涙、そして王子の動揺する姿。それらが、セリーヌの心に複雑な感情を呼び起こしていた。リリアもまた、彼女とは違う形で孤独と苦しみを抱えていたのだということを、改めて知った。
リリアの涙を受け止める者はいなかった。王子の手も届かず、周囲の誰もが遠巻きに見守るだけだった。
「もう、放っておいてください……」
リリアのか細い声が響いたその瞬間、王子の肩に手を置いていたアランが、静かに口を開いた。
「殿下、今はリリア嬢に少し時間を与えるべきです。無理に引き留めれば、状況はさらに悪化します。」
その言葉に、王子は目を伏せた。彼の心の中では、崩れるような感情が渦巻いていたのだろう。だが、アランの冷静な忠告を受け入れるしかなかった。
リリアは涙を拭いながらその場を去っていった。誰も彼女を追いかけることはできなかった。彼女の背中が庭園の出口に消えるまで、ただ黙って見守ることしかできなかったのだ。




