16
学園の廊下で、セリーヌはアランが待っているのを見つけた。これまでなら、彼は馬車で送ってきた後すぐに王子のもとへ向かい、二人が一緒に学園内を歩くことはほとんどなかった。だが、今日は違う。
「おはようございます、アラン様。」
セリーヌは控えめに挨拶をする。アランはいつも通りの冷静な顔で頷いたが、どこか不自然さが漂っている。
「セリーヌ。今日は一緒に昼食を取らないか?」
不意に提案され、セリーヌは少し驚きながらも表情を変えずに答えた。
「……そうですか。分かりました。」
無感情に聞こえる返事をした自分に、セリーヌは少し戸惑った。以前なら、彼から誘いを受けること自体が嬉しくて、無理にでも会話を盛り上げようとしたはずだった。しかし今は違う。昨日の話し合いで見せた彼の態度が、セリーヌの中で何かを冷え込ませていた。
昼食時、二人は学園の庭の片隅で席を取った。周囲にはちらほらと他の生徒たちもいて、二人の様子を興味深げに見ている。
「今日の学園の話題は……また王子とリリア嬢のことばかりだな。」
アランが何気なく話を切り出したが、セリーヌはあまり興味が湧かなかった。
「そうですね。」
それだけを返すと、再び沈黙が訪れる。以前のセリーヌなら、この沈黙を埋めるために何か話題を探しただろう。しかし今は、会話を続けようという気力すら湧いてこない。
アランは一瞬だけ視線を彼女に向けたが、またすぐに下を向いた。
「昨日の話し合いで、君の家族に心配をかけてしまったのは理解している。だが……僕は、君を軽視しているわけではない。」
セリーヌはその言葉を受けて、目を伏せたまま答えた。
「そうおっしゃるなら、これまでにもっと方法があったのではないですか?」
静かだが、冷たい響きを持つ言葉に、アランの表情が僅かに曇った。
「……たしかに、僕は間違っていたかもしれない。」
彼の声には珍しく弱さが混じっていた。だが、その言葉がセリーヌの心に響くことはなかった。何かを後悔するような彼の様子を見るたびに、「どうしてもっと早くこの態度を見せてくれなかったのか」という思いが胸を締め付けた。
セリーヌはゆっくりと顔を上げ、静かな声で言った。
「アラン様、私たちは今さら変わることはできないと思います。」
アランはその言葉に目を見開いたが、何も言い返すことができなかった。沈黙が再び二人の間に流れる。
昼食を終え、学園の建物へ戻る途中、ジュリアとヴィクトールに出会った。ジュリアは二人の様子を一目で察し、笑顔で駆け寄る。
「セリーヌ、どうしたの?アラン様と一緒にいるなんて珍しいじゃない!」
ヴィクトールも冗談めかして言葉を添えた。
「まさか、昨日の話し合いの効果ってやつかな?」
その軽口に、アランが少し眉をひそめたが、何も言わずにその場を離れた。ジュリアがその背中を見送り、セリーヌの顔を覗き込む。
「……あれ、なんかぎこちないわね。大丈夫?」
セリーヌは小さく微笑んだが、その目に輝きはなかった。
「大丈夫よ。ただ、何もかも遅すぎたのだと思うわ。」
ジュリアはその言葉の奥にある本音を感じ取りながらも、余計なことは言わずにそっとセリーヌの肩に手を置いた。親友として、今はただ彼女のそばにいることが最優先だと思ったからだ。




