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リヴィエール伯爵家の重厚な応接室には、緊張感が漂っていた。リヴィエール伯爵と伯爵夫人がソファに並んで座り、セリーヌはその隣に控えている。その向かいにはアラン・ド・モントレイユが単独で腰掛けていた。冷静な顔を保っているものの、その目はどこか警戒心を帯びている。
伯爵がゆっくりと口を開いた。
「アラン様、本日はお忙しい中お越しいただき感謝いたします。この場を設けたのは、セリーヌとの婚約についてお話しさせていただくためです。」
アランは静かに頷き、口元に薄い微笑を浮かべた。
「もちろんです、伯爵。その件については、私も何かご懸念があるのだろうと予想しておりました。」
伯爵は彼の言葉を無視するように続けた。
「セリーヌが辛い思いをしていること、あなたの態度が彼女に対して冷淡であることは、私たち家族にとって見過ごせない問題です。そして、学園でのあなたの行動――王子とリリア嬢に付き従う姿勢は、婚約者としての責任を果たしているとは言えません。」
アランは眉を動かし、すぐに反論した。
「それは誤解です。私は王子を尊敬し、そのお力になることが私の役目だと考えています。それ以上でも以下でもありません。」
「では、セリーヌに対する態度はどう説明されるのですか?」
伯爵夫人が穏やかな声ながらも鋭く切り込む。アランの表情が一瞬硬直した。
「……セリーヌに対して、冷淡であるつもりはありません。ただ……その、私は……」
言葉を選ぶように視線を彷徨わせながら、アランは続けた。
「私は婚約者として、彼女の立場を尊重しています。しかし、私の行動が彼女を傷つけていたというのなら、それは……誤解があったのではないでしょうか。」
要領を得ない言い訳に、伯爵の目がさらに険しくなった。
「誤解では済まされないのです。婚約者として、彼女を守り、支えるべきあなたが、その役目を果たしていないのではないですか?」
アランは反論するかのように口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。代わりに、やや苛立った様子で視線を逸らした。
「王子の信頼を得ることが、私にとって重要な責務だと考えています。それが……公爵家の立場においても必要不可欠なことです。」
「つまり、セリーヌのことは二の次というわけですね?」
伯爵の厳しい声が、部屋の空気をさらに冷たくした。セリーヌは俯きながら、胸の奥で小さな痛みを感じていた。それでも、彼女は静かに言葉を口にした。
「アラン様、私はもう、無理にあなたに期待することをやめようと思っています。」
その言葉に、アランは驚いたように彼女を見つめた。
「無理に期待する……?そんなことを考える必要はない。僕は婚約解消など望んでいない。」
「ですが、私は……」
セリーヌが言葉を続けようとした瞬間、伯爵が手で制した。
「アラン様、この話し合いは決裂と言っていいでしょう。あなたが今後もこの態度を続けるのであれば、婚約解消の方向で調整を進めます。」
アランは動揺した表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めた。
「それは認めません。私は婚約解消など望んでいませんし、そんな結論を出される理由も理解できません。」
「ですが、それを決めるのは我々です。」
伯爵の言葉には断固たる意思が込められていた。アランは何も言えずに立ち上がり、軽く礼をして退出した。その背中には、普段の冷静さが欠けていた。
セリーヌは小さく息を吐き、静かに目を閉じた。婚約解消の決断が迫る中、彼女の胸には少しだけ解放感と、大きな虚無感が同時に広がっていた。




