表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう、今更です  作者: つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/52

13


セリーヌは、ふと学園の中庭で風に揺れる木々を見ながら、幼い頃の記憶を思い出していた。まだ婚約などという現実が遠い昔の話であり、ただ純粋にアランと笑い合っていた日々。


「セリーヌ、ほら、手を貸して。」


少年の頃のアランは、いつも堂々としていて、少し大人びて見えるところがあった。だがその手は、自分が先に進むためではなく、セリーヌを支えるために差し伸べられることが多かった。


丘の上の花畑に遊びに行ったとき、スカートの裾を気にしてなかなか上れないセリーヌに、彼は軽く笑いながら手を差し出した。


「こんなところでつまずいてると、ほかの子たちに遅れを取るぞ?」


少しからかわれた気がして頬を膨らませたが、アランの手は強く温かかった。彼の手を借りて駆け上がった先には、一面の花が広がっていた。


「わあ……きれい……!」


「ほら、だから急いだほうがよかっただろ。」


アランは満足そうに胸を張って言いながら、摘んだ花をセリーヌの髪にそっと挿した。その仕草が照れくさくて、セリーヌは言葉を詰まらせながらも微笑んだ。





お互いに特別な存在であることを自覚しながらも、それを意識することはなかった。庭で一緒に走り回り、木登りを競ったり、雨の日には広間で本を読み合ったり――すべてが自然で、そこに余計な意識や気負いはなかった。


ある日、セリーヌが新しいドレスを着てアランの前に現れたとき、彼は真剣な顔で彼女を見つめた。


「それ、よく似合ってる。」


「えっ……本当に?」


「嘘はつかないさ。」


その一言に、セリーヌは心が跳ねるように温かくなった。彼が褒めるのは滅多にないことだったからだ。その言葉の裏に隠された真っ直ぐな優しさを、セリーヌは密かに大切に思っていた。






だが、思春期を迎えると、アランの態度に少しずつ変化が現れ始めた。以前ならば手を差し伸べてくれた場面でも、彼はあえて距離を取るようになり、言葉もそっけなくなっていった。


「アラン、どうして最近冷たいの?」


「別に、そんなことない。」


彼の答えはどこか不器用で、セリーヌにはその真意が分からなかった。それでも幼い頃の彼を覚えているセリーヌは、冷たく振る舞う彼の奥に、かつての優しさが残っていることを信じたかった。





セリーヌは学園の木陰でふとため息をついた。あの頃のアランは、今では思い出の中にしかいない。花畑で手を引いてくれた少年と、今の冷たく距離を取るアラン――二人は同じ人物のはずなのに、どうしてこんなに違って見えるのだろう。


「でも、もういいわ。」


彼に期待することをやめた今、幼い頃のアランとの記憶は、ただの懐かしい思い出としてセリーヌの心に残っていた。それは彼女にとって大切な記憶でありながらも、もう取り戻すことのない過去だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ