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セリーヌは窓辺のソファに腰掛け、カップに注がれた紅茶から立ち上る湯気をぼんやりと見つめていた。陽光が優雅なサロンの装飾に柔らかく反射し、空間に温かな輝きを添えている。しかし、部屋の中の雰囲気はそれとは裏腹に冷ややかだった。
アラン・ド・モントレイユは、セリーヌの正面に座っている。彼の背筋はまっすぐに伸びており、まるで礼儀作法の教本からそのまま抜け出したような姿勢だ。しかし、その目はカップの中に視線を落としたまま、こちらを向く気配はない。
「本日のお茶は、新しく仕入れたものなの。試してみていただけるかしら?」
セリーヌは意を決して声をかけた。柔らかな微笑みを浮かべつつ、彼の反応を待つ。
「ああ、そうか。」
アランの返事はそっけなかった。それ以上の言葉はなく、ただカップを手に取り一口飲むだけ。紅茶の感想を期待していたセリーヌは、少し肩を落とす。それでも微笑みを崩さず、再び話題を探した。
「この間、庭師が薔薇のアーチを新調してくれたの。とても見事に仕上がったのよ。後でご覧になる?」
「興味ない。」
短い返答が放たれるたびに、セリーヌの胸に小さな棘が刺さるような感覚が広がった。それでも彼女は、精一杯の平静を装いながらカップに口を運ぶ。
サロンの時計が微かな音を立て、静寂を切り裂くように時を告げた。二人の間に漂う空気は、いつもと変わらない重苦しさを持っていた。
「……最近、学園で何か面白いことはあった?」
「あまりない。」
その返事に、セリーヌはつい目を伏せた。会話を続けようとするたび、拒絶するような彼の態度に胸が締め付けられる。それでも何とかこの場を和らげたいという思いが、セリーヌを再び駆り立てた。
「アラン様、今度の夜会はどなたをエスコートされるの?」
彼の表情が少しだけ動いた。しかし、期待していたような興味深い話題にはならなかった。
「リリア嬢を誘うつもりだ。」
「……リリア嬢?」
「王子の真実の愛の相手、と噂されている彼女だよ。彼女には注目が集まっているから、適切な配慮が必要だ。」
アランはさらりと言い放った。それがどれだけセリーヌの心に影を落とすか、気に留めている様子もない。
セリーヌはカップをテーブルに戻し、手を膝に置いて指を絡めた。痛む胸の内を隠すように、微笑みを浮かべて返した。
「そう……お気をつけて。」
それ以上何を話せばいいのか、分からなかった。時計の針が進む音だけが耳に響く。気詰まりなお茶会が終わる時間を、セリーヌはただひたすら待ち続けた。




