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第十四話「まっさーじ ②」



 夕食は、みんなの笑い声が溢れていた。


 和也様と和奏様が次々に話して、にこにこと東雲様は和斗様にご飯を食べさせている。


 僕が混ざれるような空間じゃなかった、僕の家での夕飯を思い出す。姉さんが上品に話していて、それで穏やかな笑いが広がって。父さんも母さんも、僕の前では見ることができないくらい笑顔だった。


「…おい」


小さく呼びかけられ、顔を上げる。ちょっと心配するように、和也様が僕を見ていた。


「どうした」


『なんでもないです』


僕がそう答えると、安心したように会話に戻った。気を遣っていただいたことに気づいて申し訳なくなる。


 箸を取り、ハンバーグを一口程度の大きさに切って口に運ぶ。


「…!」


美味しい。


 熱々のものってだけで、いつも美味しいけれど、今日はそれ以上な気がした。ぱくぱくと食べていると、視線を感じて顔を上げる。


「おいしいかい」


『はい、とても…!』


それはよかった、と言って、東雲様が笑う。その柔らかい笑顔に、またドキッとする。


「…さぁ、じゃあ食後のデザートを食べようか」


食べ終わった頃、東雲様が紅茶を淹れながらおっしゃった。そうだ、なんだろう。


 和奏様を膝の上で抱っこしながら、僕は少し身を乗り出した。


「はるねーちゃん、わくわく?」


『…!うん、わくわく』


和奏様が嬉しそうに見上げてきた。


「とぉもわくわく!」


「わかなも!」


和斗様が手をパタパタさせて、和奏様もそれを真似する。ご飯中だろと言いながらも、和也様は二人にすごく優しい目を向けていた。


「好きなのを選んでね」


ぱかっと東雲様が箱を開けると、キラキラと飾り付けられた何かが複数入っていた。


「ケーキだーっ!」


「俺このチーズ」


「わかなはチョコ!」


「とぉはこれ」


「はるさんはどれがいい?」


…情報量が多すぎて処理能力が間に合わなかった。とりあえず東雲様が僕に聞いてくれたことはわかる。


『えと、じゃあ、苺のを』


綺麗な飾りみたいな、砂糖菓子とかガラス細工とかに近い感じの見た目だ。本当にこれは食べていいものなんだろうか。


 …けーき、ってたまに姉さんたちが食べてたやつ…。


 一口の大きさに切って、口に入れる。とたん、ふわっとした感触で口がいっぱいになった。ふわふわな味、いやふわふわな味ってなんだろう。とにかく、甘くて、でもベタベタ甘すぎるわけじゃなくて。苺の甘酸っぱさとちょうどよく合っていて、すごく美味しい。


「美味しい?」


『すっごく…!』


またにこにこと僕を見つめていた東雲様の問いかけに、すごい早さで答えてしまった。思ってることと一緒だったから…。


「喜んでもらえるのはやはり嬉しいね」


穏やかな微笑みが、さらに深くなる。さっきからずっと鼓動が早くなっている僕の心臓はどうしてしまったのだろうか。


「じゃあ、私はお皿を洗うからはるさんはお風呂を頼んでいいかい」


『わ、わたし、やります…』


仕事でお疲れだろうに、ご飯まで作ってもらってしまって、お土産も持って帰ってきてもらって。せめて少しでも、家族としての時間を過ごしてもらいたかった。


 遥歩さんはいないけれど、お皿洗いだったら教えてもらっている。やれます!とガッツポーズをしたら笑われた。


「では、お願いしようかな」


「とぉさん一緒!?」


「やたぁ」


「…!」


和奏様の顔がもっと嬉しそうになった。和斗様もへにゃんと眠そうに笑い、三人分のお風呂の準備をしていた和也様も目をキラキラさせる。


 お願いされた。


 信頼、されたんだ。


 心の奥からぱちぱちと、喜びが溢れてくる。嬉しい。すごく。


 もともと頑張るつもりだったけれど、余計に頑張ろうと思って僕は四人を見送った。



◇◇◇



 僕がお風呂から上がると、和也様たちを寝かしつけに行っていらした東雲様が起きていた。


 僕が出てきたことに気がつくと、ソファをトントンと叩いて、隣に座るように促される。ちょっと緊張しながら座ると、ふわりと毛布をかけられた。


『…あのっ、東雲様!』


「ん?なんだい」


思い切って声をかけると、すぐに優しく東雲様が返してくれる。


『その、まっ…さーじを、してもいい、ですか』


いざ言うとなるとなぜかとても恥ずかしい。ぽかんとしている東雲様からつい目を逸らしてしまった。耳が燃えるように熱い。失敗した。


「…っふふ。それはありがたいな。頼んでもいいかい?」


恥ずかしさのあまり丸くなった僕の耳に、笑い声が届く。ふふふと笑いながら、東雲様が立った。


『…え、ぁ、やっていいんですか…?』


「してほしいよ」


ストンと僕の前に東雲様が座る。ちょうど手が届きやすい高さで、背が大きいんだなと改めて感じた。


『失礼します…』


見えてないから意味がない気もするけど、一応呟いて、背に手を当てた。


 和也様の手つきを思い出しながら、一生懸命押す。男性の背中なんて触ったことなくて、意外とがっしりした体つきなんだなとかそういうことに想像が飛んでしまう。


 徐々に東雲様の体から力が抜け、僕に体を半分預けてくれているような形になった。やがて、微かな寝息が聞こえてくる。


 …わ、眠ってる…。


 改めて考えると、東雲様が寝ている姿を見たことがなかったような気がする。いつもパタパタ働いてくださっているから…。


 東雲様も寝るんだ…、みたいな、ちょっと新鮮な気持ちで寝顔を覗き見た。ちょうどさっきのケーキみたいな、触れていいのか躊躇ってしまうような綺麗な人だ。また、止まったと思った心臓がドキドキを開始する。


「…あ、このままじゃ風邪ひいちゃう」


さすがに僕が東雲様を部屋まで運ぶのは無理だ。でもこのままだと体が痛くなってしまいそうだし…。


「そうだ」


んしょんしょ、と東雲様をソファの上に乗せた。とりあえず僕に掛けてもらっていた毛布をとりあえずふわりと被せさせてもらう。


 部屋から枕と毛布を数枚持ってきて、東雲様が寒くないようにとたくさんもふもふにした。起こしてしまわなくてよかった。


 余った毛布を巻いて、僕もソファに寄りかかる。


 とろとろとした眠りの波がすぐにきて、僕は目を閉じた。



◇◇◇



「…寒くないかい」


首に何かが触れる感覚で、ゆっくり眠りから引き上げられる。


目の前には東雲様の顔があって、かっこいいなぁとぼんやり思った。視界に天井が映っていて、それから体の下が柔らかいからベッドの上だろう。


「ん…。しののめ、さま?」


どうしたんだろう。


 眠い目でほんやりと見上げる。その顔が凍りついたように険しくなったのを見て、なんだろうと思った。


 まだまどろんでいた頭は、けれど、次の一言で冷水をかけられたみたいに冷たくなった。


「…はるさん、君は話せるのかい」




 

放置してしまって申し訳ありませんでした…!


突然なのですが、明日で終わらせます。

と言うわけで、もうしばし、はるの旅にお付き合いくださると嬉しいです。

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