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第十三話「まっさーじ ①」




 最近、東雲様のお帰りが遅い。日が変わるギリギリにやっと帰ってきて、朝はご飯を作ってくれて行ってしまう。


 帰ってこない日の頻度も多くなり、睡眠不足なのではないかと不安だ。僕が心配していい方ではないかもしれないけれど、でも顔色がさらに悪くなってきている気がする。


「…まぁ、父さんは忙しいよ」


夜、僕がお風呂から出てきたあとは遥歩さんと和也様、それに僕だけの時間だ。


「僕ができることって何かないのでしょうか…」


もう手も治って普通に動かせるようになったから、お皿洗いなどの手伝いはしているけれど、それ以外に何かしたい。


「別にないと思う。強いて言うなら、マッサージとかじゃないか」


「まっさーじ」


聞いたことのない単語で、つい繰り返してしまう。僕の反応を見た和也様に、あぁ…、と小さく言われた。


「知らないのか。えっとだな…」


手招きをされて近づくと、背中を向けろと言われた。


「触るぞ」


前置きされて、手が僕の背中に触れる。撫でるような仕草が続いたあと、ぐっと押された。


「痛いか?」


ふるる、と首を振ると、ん。と返される。そのまま何分間か、撫でてはゆっくり押してを繰り返された。


「こういうやつだ。俺は手も体も小さいから父さんにはできないけど、お前ぐらいだったらいけると思う」


そう言って、じゃあもう俺は寝るから、と和也様がソファから降りた。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


その会話を交わしたあとで、僕はさっきの和也様の手の動きを真似して辿ってみる。ぼーっとしながらだったから、遥歩さんがにこにこ見てることに気づくのには時間がかかった。


「あ」


「ふふふ」


真っ赤になって動きを止めた僕に、遥歩さんが笑った。




◇◇◇



 朝、起きるとちょうど東雲様が仕事に行くところだった。和也様は朝日に眩しそうに目を細めながらも見送っている。


「おはよう、はるさん。今日も子供たちをよろしくね」


僕に気がついた東雲様が笑ってそう言われる。ぺこりとお辞儀で返した僕にもう一度微笑み、行ってきます、と外に出て行く。東雲様を二人で送り、鍵をかける。


「今日、父さん早いってさ」


僕の横を通り過ぎる時に、和也様が小さく囁いた。


「えっ、あ…!」


マッサージするんだったら今日じゃない?そういう顔で見つめてくる。声抑えろ、と即注意をされた。


「ありがとうございます…!」


「…ん」


和也様がいなかったら、今頃僕はどうなっていたかわからない。それに日々の生活の中でも、和也様は静かにたくさんサポートをしてくれている。


 本当に、感謝してもし足りない存在だ。


「や、そんな俺は…。手だって、俺が怪我させたんだし」


「あれは僕が勝手に動いたことだから、和也様が気にすることじゃないです…!怪我がなくて本当に良かった」


居心地が悪そうに、もぞもぞして目を逸らす和也様。ぶんぶんぶんと首を振ると、髪がバサバサになった。


「おわ」


「ふはっ」


前が見えなくなって慌てて髪を整える僕に、和也様が吹き出す。


「…!」


くつくつと笑う和也様の笑顔がとても新鮮で、じわっと胸があたたかくなった。思わず口角が緩む。


「なんだそのにへにへの顔は」


そう言って、てててと走って行く和也様の耳が赤い。照れ隠しってわかりやすいその行動は年相応な気がして、なんだか可愛くて嬉しかった。



◇◇◇



 ただいま、と穏やかな声で東雲様が帰ってきたのは、夜の八時ごろだった。


「とうさん!」


「とぉと!」


片付けをしていた和奏様と和斗様が、その場に物を置いて玄関に駆けていく。うずうずした表情のまま二人の後片付けをしようとした和也様にそっと頷くと、和也様も、ぱっと駆け出していった。


「ふふ、元気がいいね。私は手を洗ったりするから、これを冷蔵庫に入れてきてくれ」


「はぁい!」


和奏様の元気な声がして、つててーっという足音が聞こえる。


「はるねーちゃん、これなーんだ?」


そう言って、僕の目の前に薄い黄色の高級そうな箱を差し出された。


『えっ、と…?』


わからなくて見つめ返すと、にまっと笑われる。


「これはですねー、なんと!」


「食後のお楽しみだ」


後ろから和也様が和奏様の口を塞いで言った。むーっっ!と猛抗議されている。


「和奏、サプライズな?」


「あ!そうだった」


和奏様と和斗様はもちろん、和也様もいつもより饒舌で動きが楽しげだ。にこにことやり取りを微笑ましく見守っている遥歩さんと目が合い、思わず笑う。


 一気に家が賑やかになった。やっぱり東雲様は、すごい。



◇◇◇



『お手伝いできることってありますか…?』


「え?…ああ、じゃあサラダをお願いしてもいいかな」


さらだ、と首を傾げる。食べたことはあるけれど、僕にも作れるだろうか。


「じゃがいもとにんじんは煮て皮を剥いてあるから、これを子供たちと一緒に潰してくれるかい?」


そのまま、熱々のじゃがいもとにんじんを受け取る。和也様たちがどうやって作るかは知っているらしいので、僕はそれを持ってリビングに向かった。


「はるねーちゃん、手伝う!」


「俺もやる」


ポテトサラダだな、と呟いて、和也様がさりげなく器を押さえてくれた。和奏様・和斗様と協力して潰していく。


 材料を全部潰し終わったところで、和也様が和斗様と一緒にお皿を五枚持ってきてくれた。


『ありがとうございます、和也様、和斗様』


そう言うと、和也様は一瞬笑顔になったあと、別に。と顔を背けた。にこにこと心が和らぐ笑顔になった和斗様が、和也様を見上げる。


「にちゃ、うれしそ」


「なっ、言うな…!」


真っ赤になっている和也様に、和奏様が吹き出した。和斗様も僕も笑い、むすっとした顔をどうにか保っていた和也様も、堪えられなかったように笑う。


「おや、楽しそうだね」


ちょうど東雲様がハンバーグとスープを運んできてくれた。受け取って運びます、と身振り手振りで伝えると、じゃあお願いしようかなと渡される。


「ありがとうね」


机に置いて、もっと運ぼうとキッチンに行ったら、耳元で低い声が囁いた。びっくりして顔を上げると、ばちっと東雲様と目が合う。


 微笑んだ赤い目に見られて、なぜか、ぼぼぼっと顔が熱くなった。


『あ、りがとう、ございます』


口をパクパクさせてそう言うのが精一杯だった。


 心臓が驚くほどにドキドキしている。決して嫌じゃない、不思議な感情がふわふわと、僕の胸を漂っていた。







ちょっと前半の投稿を整理しました!


一つ一つが短すぎたのと、後書きの主張がとても強かったので…。ゴタゴタしててすみませんでした

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