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第十一話「気づかれた」



「はるねえちゃーん!行こ!」


「るちゃ、おふろ」


「…早く来い」


和奏様が大声で脱衣所から僕を呼び、その和奏様の服も持ちながら和也様が横を歩いて行く。僕の足元でスカートを引っ張るのは和也様だ。


 少しずつだけど、僕がいる生活にも慣れてきてくれたみたいで、近づいても泣かれなくなった。


 相変わらず、僕がオメガ男性だという性別を偽っていることに変わりはない。でもそれでも、この家族の一人に近づけているのなら、この人たちの笑顔の中に混ざれるのなら。それが、すごく嬉しいんだ。


 お風呂は、遥歩さんが最初は僕に手本を見せてくれるようにほぼやってくれて。僕はほぼ見るだけだったんだけど、最近は僕が主にやらせてもらっている。


 と言っても、和也様たちが協力してくれているからすごくスムーズに進むというのはある。


 和也様と和奏様は、体はもう自分で洗えるらしく(もう和也様や和奏様とかに僕が触るのもあんまりよろしくないので)、和斗様を泡だらけにさせてもらう。あわあわ〜、と笑う和斗様が可愛い。


「はる〜、かみ洗ってぇ」


「…」


汗ばみ、湿気でも少し濡れて張り付くスカートを和奏様が引っ張った。和奏様と、それに後ろで腕組みしている和也様の髪も、わしゃわしゃ洗う。


 浴槽で気持ちよさそうにしている和也様たちを微笑ましく思いながら眺めて、滑らないように床の泡を流し僕もお風呂の近くに行く。


「!」


かなり濡れた服に動きが抑えられ、滑りかけた。危ない…。


 ひらひらしていない服、姉さんから貰えないかな。ズボンとか、とは言えないけれど。


 …そろそろ手紙、書かなきゃなあ。多少崩れた字でも良いから書いて送りなさい、と言われたことを思い出した。今日の寝る前にでも書くことにしよう。


 のぼせる前に、と思って、そろそろ上がってもらう。遥歩さんがにっこり笑って出て行った。


 服を着てもらって、濡れた髪をざっくり拭いて送り出す。自分で着れる年齢だととても楽でありがたい。


 絞って拭いたとは言え、外に出ると濡れた服は少し寒い。でも冬に水をもらって体を洗った時の方が冷たかったから、これくらいは平気だろう。


「じゃあ、おやすみ!」


「…ん」


「やぅみ…」


元気一杯の和奏様の手を握り、ほぼ寝てる和斗様を抱っこをして和也様が子供部屋に歩いて行く。遥歩さんの髪を乾かす技術はすごくて、もう乾かし終わったらしい。ぺこんと頭を下げる僕に、遥歩さんが近づいてきた。


「では、はる様がお風呂に入られたら脱衣所で待機していますね。ドアを叩いて呼んでください」


はい、の代わりに頷いて、僕は用意しておいた服を持ってお風呂に向かおうとする。そうだと言われて思わず振り返った。


「お疲れでしょう。お風呂の中でくらいは、女性のふりをやめてもいいと思いますよ」


「…え」


言われたことの理解が追いつかない。やめてもいい。ふりを。女性の。


 それが指し示すことは一つ。喉に何かが張り付いたように、息がうまく吸えない。汗が頬をつたい落ちて、手が冷たかった。


 気づかれたんだ。


「お声も、出るようですね。はる様」


「…っ!」


そう言われて、反射的に声を出していたことに気がついた。どうすればいい。うまく切り抜けなくちゃいけない。でも、遥歩さんはどこまで知っているんだろう。なんで気づかれたんだ?東雲様はわかっているのだろうか。和也様は?和奏様は?和斗様も?


「…気づいているのはわたくしだけだと思いますよ。少なくとも和真様はご存知ないと思われます」


僕の考えを見抜かれたのか、さりげなくそう言われる。心が読めるのかなんて非現実的なことが頭をよぎる。


「…。…なんで、僕が男性だと…?」


「なんとなくですけれどね。体つきに少し違和感がありますし。まあ一言で言うと、おばあの勘です」


ほほほ、と笑う遥歩さんは、いつものような穏やかな雰囲気で。でも、その細い目が本気で、この状況を忘れさせてくれない。


「お願いです。…東雲様に、言わないで…」


「おやおや」


正直言って、無理なお願いだ。黙っている利点は遥歩さんにないし、むしろ危険だけがある。


「できることだったらなんでもします。出て行った方がいいんだったら、出て行くから、お願いです。東雲様にだけは言わないで」


姉さんにも、何かがあってほしくない。東雲様は僕をたぶん信じていてくれているだろうから、傷つけたくない。その傷つけることをしてるのは僕なのに、失望されたくない。せっかく居場所を作ってくれようとしてくれている人にこんな汚らわしい体だと知られて、軽蔑されたくない。


 お金は、たぶん体を売ったらどうにかなるはずだ。オメガ男性は高額で取引されるって本に書いてあったから、それで黙ってもらえるんだったら僕の体なんてどうでもいい。


「お願いしますっ、どうか」


「うるさい」


いきなり、違う声が割って入ってきた。弾かれるように顔を上げる。赤い、切れ長の目が僕をじっと見ている。


「和奏と和斗が起きる。もっと小さい声で話せよ。聞かれても困るんだろ?」


苛立ったように和也様が言って、そのままソファに座る。睨み上げられるように見られて、どくどくと心臓が痛かった。


「どこからいらっしゃいました?」


「ずっと聞いてた。来たのはさっき」


遥歩さんの質問に答えて、で?と僕にまた視線を向けた。


「俺らを騙してた理由は?なんで男なのに俺らのところに女として来たんだ?」


答えろよ。そう促して、和也様は僕から目を逸らさない。ひゅ、と喉が鳴ったけれど、でもここで逃げたらだめだ。どこから話せばいいんだろう。東雲様が帰って来たらどうすればいいんだろう。


「…父さんは今日は仕事が忙しいから帰ってこねぇよ。遥歩も今日はずっといるんだろ?」


「…あ」


考えてること、やっぱりわかられてる。促すように、和也様が付け足した。


「最初から話せよ。関係あるかなんていいから、全部」






 

土曜日投稿に戻します。


和也は、はるに敵意100%というわけではなさそうですね。

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