第八話
本日で、毎日投稿が最後になりました。
今週末に定期テストがあって勉強しないとヤバいというこれ以上ないほどの作者の私情により、本日で毎日投稿をストップ、11/28(金)か11/29(土)まで完全無浮上となります。
今回は珍しく(私にしては)長いのですが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
お腹がいっぱいになって、だいぶ眠気が襲ってきた。そこからはほぼ覚えていないけれど、廊下を歩いた記憶はあるから自分でここまで来たんだろうな。
体を起こすと、胸が重い。なんでだっけと思って、それから女装していることを思い出した。
不自然じゃないようにって一週間くらい着けてるけれど、いまだに慣れない。女性って大変だ。
昨日はほぼ寝ていたから、何の用意もできていない。僕の荷物は着替えと女性用品、薬箱。たぶん、それだけ。
僕の十七年間ってこんなにちっちゃくなるんだって思って笑っちゃうぐらい、小さい。
何枚かもらってきた、姉さんのお下がりの服はまだ全然新しくて、状態もいい。落ち着いた青系の色のワンピースは、姉さんも似合うと思うんだけどな。
姉さんはふりふりした豪華な服も確かに似合っているし、その方がご令嬢って感じもするから僕にいっぱいくれたんだろうけど。
でも僕は、この落ち着いた色味と飾りが好きだ。
短いズボンを履いてから、柔らかい布を身に纏う。足が寒いのにもだいぶ慣れた。もともと僕の服は姉さんの物であることが多かったから、スカートにそこまで馴染みがないわけではない。
服装を整えて髪をとかし、後ろで上半分をまとめる。ハーフアップっていうんだったかな。とりあえず、それなら僕もできる。
化粧道具はもってきていないから、僕の準備はこれで終わりだ。女性っぽく見えることを確認して、僕はベッドにそっと腰掛けた。
時計の針の音がする。時間、―読めるようになっていてよかった。
今は八時二十五分。レースカーテン越しに朝日が僕の背中に当たっている。
窓の外でも見てみようかなと立ち上がった瞬間、戸が叩かれた。慌てて近づき、手前に引く。
「おはよう」
東雲様がふわりと笑って立っていた。柔らかなその笑顔に少し、どきりとする。
「今日は子供たちと顔合わせだけれど、大丈夫かい」
…そう。初めて会うのだ。昨日和奏様とは会ったけれど、残るお二人のお子さんとは初の対面である。
昨日それを聞いて驚いたけれど、もう心も落ち着いた。頷くと、東雲様が頷き返す。
「わかった。着いてきてもらってもいいかな」
その言葉に頷いて、僕は東雲様のあとを追って廊下に出た。
紫色の羽織の背で、淡い水色の髪が音を立てる。僕の前で朝日をキラキラと反射しているそれが、とても美しかった。
廊下を曲がると、リビングが見えた。大きなテーブルの横で、小さな男の子と和奏様が遊んでいる。
廊下が終わってすぐのところの、昨日座ったソファには、六歳くらいの男の子が座って本を読んでいた。台所には、五十代くらいの女性の人。
「はるねぇちゃん!」
ぱっと顔を上げて笑顔になり、和奏様が駆け寄ってきた。数歩離れたところで立ち止まり、気をつけをする。
「和也、和斗。おいで」
和真さんが声をかけると、和奏様と一緒に積み木で遊んでいた男の子がよちよちと歩いてきた。ソファの男の子はこちらを見ようともしない。
「はるさん、この子が和斗だよ。次男で三歳。それで、あそこで本を読んでいるのが和也。六歳なんだ」
呼び寄せることは諦めたのか、小さな男の子…和斗様の頭をわしゃわしゃ撫でながら東雲様が教えてくださる。
…まだ、そんなに小さいんだ。年齢が、胸に迫ってきた。
僕が家族として接してもらえなくなったのが八歳の時だった。それよりもずっと小さな子供たちだ。その幼い体でどれだけ辛さに耐えてきたんだろうって、ふと思う。
「済まないね。本当は和也にも挨拶してもらいたかったのだけれど、まだ受け入れられていないみたいで。こちらの準備不足だ、申し訳ない」
重ねて謝罪され、焦ってしまう。僕のことなんか受け入れられないのが当然だと思う。
自分たちの家族に余所者が入ってくるのなんて嫌だろうし、しかもいなくなったお母さんの代わりとして、だ。気持ちを踏み躙られたような感覚に陥るのだろう。
僕は元から歓迎されるとは思っていなかったし、東雲様が僕に謝る理由もない。
「…ごめんね。まだ君も不安だろうに…」
首を横に振る僕を気遣うように、東雲様が申し訳なさそうに言った。
その瞬間、ばちん、と大きな音がした。
「父さんがそんなニセモノに謝る必要なんてねえよ!オレは認めないからなっ、オレらの母さんは母さんだけだ!」
絵本を閉じて、和也様が僕をきつく睨んでいた。東雲様によく似た赤い目が、鋭い光を湛えて僕を見る。
「喋れないくせに何が代わりだよ、ふざけんじゃねえよ!!」
「…和也!」
はっと和也様が息を呑んで言葉を止めた。
ここに来て初めて聞く、鋭さを含んだ、強い東雲様の声。それが、空気を真っ直ぐに切り裂く。
「…言っていいことと悪いことの区別はつくだろう?今、はるさんがどんな思いをしたか、想像はつくかい」
すぐに声の大きさは戻ったけれど、硬い声音になっている。静かな怒りがすごく重くて、動けなくなる。
「和也。父さんも悪かった。碌に話し合う時間も取れなかったからね。けれど、ここでぶつけるのは違うだろう?はるさんに向けるものではないよね。それはわかるかい」
話しながら、東雲様はゆっくりと和也さんに近づき、手を取る。固まった和也様の手を軽く引いて、僕たちを振り返った。
「悪いけれど、少し話をしてくる。遥歩さん、ここを頼んでもいいかい」
台所でお皿を洗っていた女性が頷いた。それに軽く頷き返し、僕にもう一度謝るような目を向けたあと、東雲様は廊下に出て行かれた。
…なんでこんな不穏な感じの終わり方にしたんでしょうね?
とりあえず今まで言ってませんでしたが、ハッピーエンドで終わらせます!
なんとかかんとか頑張って、ここからはるたちを「幸せ」にしますので、どうか最後までお付き合いください。
そして冒頭にも書きましたが(今更ですが前書きに書く必要なかったと気づきました)、11/28(金)か11/29(土)までこの作品の更新はありません。テストが終わってからは週1回か2回の更新頻度になると思います。
そのあたりはテストが終わった後に、また後書きでお伝えできればなと思います。
あと今回、かなり改行してみたのですがどうでしょうか。私のはかなりぎゅうぎゅう詰めだったということに気が付きまして…。
読みやすくなっていたら嬉しいです。
この作品を投稿し始めてから一週間、今までずっと見ていただいてありがとうございました。
一週間後ぐらいまでには絶対に帰ってきます(絶対)!
そこでまたお会いすることができたら嬉しいです。
では、またお会いすることができる日を楽しみにしています。さようなら
(…最終回っぽくなりましたが、本気で帰ってきます!)




