元おっさんは陰謀により転生し最強に至る 〜闇の政府に消されないために鍛錬していたら無双状態に〜
前世の俺はごく普通の会社員だった──いや、ちょっと普通じゃなかったかもしれない。趣味でニセ陰謀論を作り上げ、それをネットの片隅で披露して遊んでいたのだ。
『実は某国の指導層は秘密裏に不老不死技術を研究している』
『巨大資本がメディアを操って国民を洗脳している』
『世界は闇の政府によって支配されている』
などなど──適当に考えたデタラメ都市伝説をネットの海に排出していた。
だが、ある日のこと。
俺の書いた陰謀論が偶然にも某国の本当の秘密に触れてしまったらしい。
『マズいですよ。消されますよ』
『あーあ。これは死んだな』
『うぷ主はもう生きていないだろうな』
いつもと違うノリだな。
まぁ、視聴者も俺と同じく適当なことを言うヤツらだから無視でいいわ。
――――その夜。俺は死んだらしい。
帰宅途中、黒服の男たちに襲われると首をぐっと絞められてしまい、俺の人生はあっけなく幕を閉じたのだ。
――――目を覚ますとそこは剣と魔法の異世界だった。
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転生してから数年。俺は平凡な冒険者として異世界ライフを満喫していた。
金もそこそこあるし飯もうまい。
適当にモンスターを狩り、適当に酒場で騒ぎ、適当に怠惰な生活を送る。
前世は社畜だったらこれくらいだらけてもいいよね。
怠惰な極みみたいな生活を送っていたが今更どうにかしようとは思わなかった。
――――でもね。鍛錬だけは怠らなかったよ。
なんせ前世では権力者にとって都合の悪い内容を書いて消されてしまったんだ。
この手の輩は異世界にもいるし、なんなら現代日本よりもひどいと思う。
陰謀論界隈で『ディープステート』みたいな感じで呼ばれているのはこういう権力者なんだろうな。
――――闇の政府的に消されないように鍛錬していたら最強になっていた件。
現代日本で同じことを言えば確実に『頭にアルミホイル巻いている系のヤバいヤツ』認定されるだろうが俺は本気だった。
そんなある日、森で倒れていたボロボロの少女を拾った。
銀色の髪に、怯えた紅の瞳。
名はリリィというらしい。年は十歳ほどだろうか。
保護したのはいいものの、警戒心バリバリのリリィをなだめるためにいろんな話をしてみたんだが食いつきが悪い。ついに俺はこの手の子どもは絶対に興味がないであろう陰謀論について語ってみた。
「この世界は闇の政府に支配されてるんだ。表向きは教会とか王国とかが支配してるように見せかけて、裏では全部闇の政府の手のひらの上ってわけなんだ」
闇の政府的な存在がいるのは確かだと思うけど、世界を支配している話についてはもちろんデマだ。
だが、リリィは真剣な眼差しで俺の話を聞き、震える声で言った。
「……知ってる。わたし、そこから逃げてきたの」
「――――は?」
「わ、わたしは教会が運営する孤児院にいた。そこは表向き子どもたちを大切に扱っていたけど裏ではひどいことばかりしてた。特に薬物製造がひどかった」
いやいやいやいや。
なんで俺よりも陰謀論らしいことを言うの⁉
この子陰謀論者適正高すぎでしょ!
「子どもの脳髄を材料に秘薬を作り売り飛ばしていたのか」
しかし、俺も陰謀論者の端くれ(ニセだけど)。
負けていられない。
なによりもようやくしゃべってくれたんだ。
ここで会話を広げていく。元社会人としての腕前が試されるところだ。
「うん……だから逃げてきた。ヤツらはすぐにわたしを追ってくる」
「ならば守ってやろう」
ちょっと声のトーンを落として重い感じの声を出してみる。
雰囲気を出すためだ。
「あ、ありがとう……」
こうしてガチの陰謀論者のこの子を守るニセ陰謀論者の物語が始まったのであった。
――――いや、始まるな。
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異世界は治安が悪い。これ常識。
今日も今日とて盗賊さんたちと遭遇した俺たちはすぐに戦闘状態に突入した。
「わ、わたしを闇の政府が追ってきたんだ……」
と、この陰謀論者の子は言っている。
この子の頭の中では『盗賊=悪の秘密結社的存在』みたいな感じになっているのだろう。
「ヒャッハー! その娘を渡せええええ!」
「渡したら苦しまないように殺してやる!」
「やっぱ、苦しんで死ね!」
盗賊たちは黒装束に身を包んでいた。
厨二病かな?
異様な魔法と支離滅裂な会話。
クスリでもやってるのかな?
なんか普通の盗賊とは比べ物にならない強さだった――――けど、俺はたゆまぬ鍛錬で得たとんでもない魔力量と身体能力で軽くねじ伏せた。
「あー、最近の盗賊は強化薬までキメてんのかよ」
そう思いながら、俺は彼らを片っ端からぶっ飛ばしていった。
剣を振るえば空気が震え、拳を振るえば地が割れる。
完全に無双状態だった。
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戦い終えた後、リリィは俺にすがりつくと涙をぽろぽろ流して言った。
「ありがとう……! これで……これで、闇の政府に連れ戻されずに済む……!」
「あ……うん」
いやー、闇の政府とか……異世界に来てまでそんな陰謀論を聞くことになるとは思わなかったよ。
「いや、あれ盗賊なんだけどね……」
「闇の政府に連れ戻されなかったのはあなたのおかげ……」
あー、ダメだ。話聞かないタイプだ。
実際、陰謀論者ってどれだけ論理的に話しても納得しないからね。
『地球は平面だ!』
『いや、重力とかの説明がつかないんですがそれは……』
『そ、それは……NASAが自分たちにとって都合の悪い情報を隠しているからだ!』
『意味がわからないよ』
前世でもこんな感じのやり取りが何度もあったのでよくわかっている。
――――いや、地球平面説って言っているけど地『球』って言っているじゃん。球じゃん。球体じゃん。
ちなみに彼らいわく恐竜が絶滅したのは地球が平面であるが原因らしい。
遥か彼方から飛んできた隕石が地球に落下!
からの……落下の衝撃で平面上の地球が横になってしまい、転んで弁当の中身を全部ぶちまけるがごとく、バイーンっと恐竜が宇宙に飛んで行ったということらしい……。
まったくもってむちゃくちゃである。
「うんうん。そだね。悪魔崇拝者たちに連れ去られなくてよかったね」
面倒になった俺は迎合することにした。
こういうときは話を合わせるのが1番いいのだ。
否定しちゃダメなんだ。
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この世界の住人は陰謀論者だったらしい。
なんかよくわからないけど盗賊をボコしていくうちに俺の名は街に広まっていき、とうとう闇の政府と戦う光の戦士扱いされることになった。
国と仲が悪いことで有名な冒険者ギルドでは俺にSランク冒険者の称号を与えてくるし、王権と敵対している貴族からは引き抜きの話すら舞い込んでくる始末。
これなんかの陰謀では?
――――しかし俺は気乗りせず、リリィと2人、のんびりした田舎暮らしを選んだ。
そんなある日、リリィが真剣な顔で俺に言った。
「……ねぇ、闇の政府ってどんな組織になっているのかな」
いつもどおりこの陰謀論者ちゃんは闇の政府について知りたがっているので適当な話をでっちあげる。
『世界を操る13の家系が年に1回集まってこの世界の行く末を決めている』
『その中に神の血を引く支配者がいる』
『悪魔崇拝者は存在する。ヤツらはサタンを崇拝し子どもたちを生贄に捧げている』
――――などなど。本当に適当な話を創作していった。
その話を聞いたリリィは、真剣にメモを取り、目を輝かせていた。
……まぁ、リリィが楽しいならいいか。
だがその背後で本物の『悪魔の13家』と呼ばれる支配者たちが俺の存在を危険視して密かに会議を開いているなど、このときの俺は知る由もなかった。
そう――――俺は今日も知らぬ間に新世界秩序をひっくり返しかけているのだった。
「おっしゃー、次は宇宙人が人類を作った話について教えてあげるよ」
無邪気にそんなことを言いながら――――。
お読みいただきありがとうございました!
6作品目の短編ですがちょっとギャグ系な感じで書いてみました!
都市伝説、陰謀論を絡ませてみたんですけど難しいですね。
筆者は都市伝説・陰謀論に詳しくありませんし、この2つの違いすらもわかっていません。
詳しい人いたら教えてください。
あともしよろしければ、
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