まちに まおうのてした が あらわれた !
ありきたりなお話です。
私には両親がいない。
馬車で、故郷に帰る旅をしていた夫婦は、森を通る時に運悪く魔獣に出会ったらしく、逃げるのに必死で森の奥で魔獣にやられてしまった。
母親はその時、偶然にも洋館を見つけ、自分の子供だけでも、と洋館の門の隙間から私を置いて、魔獣をここに近寄らせないように、自分から森の奥へと走り去って行った。
でも、それでも貴女は私達の家族よ。
と、私の頭をなでで膝にのせてくれたのは、洋館の主であり、大好きな育ての母。
ズルイズルイオレも!と騒ぎたてるのは母の三人の子供のうちの末弟だ。
私の義理の弟だけど、私がこの家に拾われてから産まれたので、私のことをおねーちゃんおねーちゃんと、呼んでくれる。
ちょっと静かにしてよ、と私達の近くで本を読んでいた次兄に怒られた。
でも私、知ってるんだ。
静かな書斎で本を読むんじゃなく、わざわざ本を持ってきて私と末弟の近くで必ず読むんだよ、下の兄さんは。
父と上の兄さんは、お仕事で館には今は居ない。
私に両親は居ない。
でも、私は拾われて、家族がいて、とっても幸せ。
とっても、幸せだった。
あの日までは。
いつものように、家族でのんびりとした午後だった。
私はなんにもわからなかったけど、急に母と下の兄さんから笑顔が消え、周りを見渡す。
逃げて!と言われた気がした。瞬間
光が私を包み込んだ。
光が消え、目を開けると、そこには・・・動かないみんなが・・・
ーーーーーー
あれから、8年がたった。
私は森の近くの町に住んでいる。
私は多分、18歳になった。
家族の復讐をしたいとも思ってない。
私は働いて育てないといけない家族がいるから。
昼間、町の冒険者ギルド併設の食堂で働き、夕方に教会に預けてある、家族のまーたんをお迎えに行き。
夜は、まーたんを寝かし付けたあと、家で防御の魔方陣を刺繍するという内職をして、やっと二人で細々と生きている。
夜、いつも
「ねーしゃ、むりしてなぁい?」
と、まーたんは聞いてくるけれど、大丈夫。
少ないながら、貯金も出来てる。
もう少し、もう少しでこの生活から、きっとー・・・
ーーーーーー
その日、城から通達があった。
その話は冒険者から聞いた。
『勇者選定』『魔王復活の兆しあり』
『魔物の増加』『討伐隊結成』
「ネイシャルちゅわーん、聞いて聞いてー!」
「はぁーい」
食堂の忙しい時間が過ぎ、客も落ち着いた頃に、私は食堂の常連客である中年冒険者達に話しかけられた。
この時間なら、少しくらい客と話ししてても怒られない。
テーブルを片付けつつ、世間のニュースなどを教えてもらう。
「なんか最近、キナ臭い情報ばっかだぜー?」
「なんか、城から通達があったんですよね?勇者?とかなんとか」
「そうそう、魔王が復活しそうだからだそうだがなー」
「まぁ俺達はそこそこ強いから、もしこの町に魔王軍がきたとしても、大丈夫だかね!ネイシャルちゃん!」
酒飲みながら言われても・・・と私は空になったジョッキを片付けつつ、はぁーい、と返事をした。
ネイシャルがジョッキや汚い皿を持って奥に去ったのを見て、テーブルの中年冒険者は酒をグビグビとあおる。
「確か、8・・・9?年くらい前にも、魔王復活とかなんとか通達あったよなー」
「そうそう、あそこの・・・森の反対側の村が襲われて・・・そん時もこの町から討伐隊が結成して行ったよな」
「その後だよなー。小さなネイシャルちゃんが赤ちゃん連れて、この町にきたのって」
「たぶん、あの村の生き残りだろ?ネイシャルちゃんは話したがらないけど」
大きくなったな、と話しを、締めくくり、中年冒険者は酒を飲み干した。
運命の日は意外と早くやってきた。
その日は夕方まで食堂が忙しく、まーたんのお迎えが少しだけ遅くなってしまった。
空は夜を引き連れ、周りは少しずつ暗くなってきている。
なるべく小走りで、お迎えに走っていた。
「見ぃつケ・・・た」
地獄から、聴こえてきたかのような、低い声。
その後、とても嬉しそうな笑い声が、あたりに響いた。
教会はすぐそこ。
教会の中にも声が響いているのか、窓からシスター達が走っているのが見えた。
帰り支度途中の出店の主人や、冒険者達がザワザワと騒ぎだす。
騒ぎだした町の誰かがポツリと言った。
魔王軍・・・?
何故かそこかしこから、叫び声があがる。
私の目の前には、ボロボロのマントに身を包んだ、鹿のような巨大な角が生え、牙が鋭くて・・・いや、これは・・・
「貴様、そこから動くなぁぁ!」
私の周りを冒険者達が囲み、各々の武器を取り出す。
教会のほうを見ると、まーたんと目があった。
こっちに来ようとしてるのを、シスターが必死に抱きしめて抑えている。
「見ぃ・・ツケた・・・」
「え・・・あ、いたっ!」
ガシッと肩を捕まれる。長い爪もちょっと痛い。
「ネイシャルちゃんを離せぇ!」
「そーだそーだ!動くんじゃねーぞ!」
知り合いの冒険者達が声を張り上げ威嚇してくる。
その言葉に、不気味なマント男が小さく呟くと何かしたのか、冒険者達の足が動かなくなってしまった。
私は・・・
不気味なマント男が口を開く。
鋭い牙がズラリと並んで、捕まえた女へと少しずつ近付いていき・・・首筋に・・・
喰われた、と誰もが思い、目を背ける。
ボタボタと、何かが地面に流れ落ちる音が・・・。
「う・・・うわぁああぁぁぁあああん!」
と幼い子供が泣き叫ぶ声。
の後に、
「ねーちゃん、ミヅゲダぁあぁ!」
「もー、泣き虫だなぁ」
私は抱き締められ、泣きじゃくる末弟の背中に手をまわして、優しくポンポンと叩く。
「だってぇ、お、おきたらぁ、ねーちゃんとママたんが、い、居ないんだもん!」
寂しかったぁ!と耳元で叫ばれてしまった。
よしよし、と私は落ち着かせるように言った。
8年前のあの日、急に光ったと思ったら、屋敷のみんなは私を残してみんな封印されてしまった。
母は瞬時に封印解除を唱えたけれど間に合わず、解除が中途半端だったせいか赤子になってしまった。
私はそんな母を連れて、とりあえず近くの町に向かった。
魔獣は、母の力に怯え、近付くと逃げてくれたため、無事に森を抜けれたのは幸いだった。
それからは、二人姉妹として生きてきた。
「パパはなんか遠くに気配あるし、ちぃ兄ちゃんやみんなはまだ寝てるしーー!ねーちゃんとマーマが近くにいるってわかってぇぇえー!」
ぶぇぇーと泣く末弟。
母の封印解除の時に近くに居たから、封印が甘かったのか。
それでも、久しぶりに合う末弟に私も嬉しくて泣いてしまった。
「わたしも、会いたかったよ!」
「まぁーも!」
幼くなってしまった母も飛び付いてきた。
私達三人は抱き締めあい、久しぶりに家族にあえたことに、ほっこりとした。
「あ、あのね、あのね!もうすぐパパたんが迎えにくるって!」
魔族同士特有の繋がりでパパ(魔王)から伝言が届いたらしく、末弟は嬉しそうに教えてくれた。
「職場のみんなも、だい兄ちゃんも連れてくるって!」
それは、多すぎると私は思うけど、久しぶりに父と上の兄さんにも会いたかったので
とりあえず、まぁいっかと笑った。
数時間後に、町は 。
まちに まおうのてしたが あらわれた。
終。
読んでいただき、ありがとうございます!
設定として
上の兄は大兄さん(魔王軍幹部)
下の兄は小兄さん(魔王軍魔術師見習い)
末弟は、だい兄、ちー兄と呼んでます。
討伐隊は森の中に魔王軍の支部(ネイシャルが住んでた所)を見つけ、明らかな戦力差に怯えて、不意打ちで屋敷ごと、魔族を封印しました。
なので人間のネイシャルには効きませんでした。
ネイシャルという名前はパパ(魔王)が名付けました。
魔族があらわれて、村娘がつかまって、それが生き別れた家族の感動的シーンで・・・を書きたくて書きました、が
表現力なくてすいません・・・
ありがとうございました!