第6話 ネズミの王
視界に映る巨体。
ダンジョンの天井にまで届きそうな体躯は5メートル近くはあるだろう。
筋骨隆々のマッシブボディにそぐわない齧歯類の頭部。
そいつは【ラットン(変異種)】と表示されていた。
(いやいやいや、何で二足歩行!? あなたネズミですよね!?)
変異種って……何がどうなったらそうなるんだよ。巨人とでも交配したのか?
おまけに無骨は戦槌まで装備している。あれで壁を破壊してきたのか。
そして変異種が空けた壁からは無数の子ネズミがダンジョンに侵入してきている。
それはもうネズミの絨毯ですかっていうぐらいギッシリと床を埋め尽くすほどだ。
集合体恐怖症の人が見たら卒倒しそうなレベルだな。
俺の嫌な予感が当たってしまった――。
最近の異様なぐらいのネズミ大量発生はコイツが原因だったのか。
しかし、これは逆にいえばチャンスでもある。
経験値が向こうからやってきてくれたんだ。
(これだけいれば適当に石材で圧し潰すだけで経験値ガッポガッポ貰えるぞ! まさに入れ食い状態じゃねえか!)
こんな異常事態だが、俺は全くもって焦っていなかった。
何故なら俺はダンジョンという名の無機物であり、ネズミ達から攻撃を受ける肉体が無いからだ。
現に今も変異種に壁を破壊されたばかりだが、ステータスのHPは一切減っていない。
(ふふっ、つまり俺は無敵なのだ。勝ったなガハハ!)
それにダンジョンであるならモンスターの10匹や100匹徘徊してて当然。
同居人、いや下宿人として寛大に迎えてあげようじゃないか。そんで家賃として経験値を貰うってことでWINWINな関係を築けるってわけだ。
無作法にも壁を破壊してきたことは少しイラっとしたが、今回は目を瞑ってあげよう。
とまぁそんな感じで、俺はしばらくこのラットン変異種君の動向を観察することにした。
したのだが――、俺は勘違いをしていた。
嫌な予感というのは、言葉通り俺にとって不利益が生じること。
つまりこの変異種の存在が俺のダンジョン生命を脅かすことを意味する。
この時はその事にまだ気づけずにいたのだった。