第34話 感謝
四体の魔人たちが仲間になり、俺のダンジョンはようやく完成に近づいていた。
バランシュナイヴからは植物系の眷属を借り、ダンジョン内はさらに活気づいている。
ちなみにバランシュナイヴは相当に博識らしく、おかげで財宝として用意できる武具や魔法アイテムのバリエーションもかなり豊富に取りそろえることができた。
相変わらず魔人の皆は表面上はあまり仲良くはない(主にシスが輪を乱している)けど、それでも俺の相談や頼み事には耳を傾けてくれるし協力もしてくれる。
そして現在ではダンジョンも全10階層まで深く大きく広がっており、残すところ地上への出入口を開通させるだけとなった。
「うおぉ、ごっついなぁ。めちゃクソキラキラしとんのぉ」
シスは自分が担当する階層から、コアのある最深部まで降りてきた。
そして荘厳な広間を見渡しながら嬉々とした表情を浮かべている。
ダンジョン・コアの広間は大理石を用いた神殿風にデザインしてみたのだ。聖水が無限に湧き出る噴水に、蛍石を細工して造ったシャンデリアやステンドグラス。オマケにバランシュナイヴから貰ったクリスタルの花が無数に咲き誇り、もはや地下ダンジョンというより楽園の様な光景になっていた。無論、隠し部屋としての造りになっている点には抜かりはない。
ファラの結界魔法を使い厳重に護られており、最深部に入ってきた者を俺が視界内に捕捉し、その上で侵入者かどうかを判別してから招き入れる仕様になっている。
(ふっふ~ん、ゴージャスでいいだろ)
「どあほ、関係者しか入れんのにこない豪華にする意味ないやん」
シスはそんな嫌味を言ってきたが、俺も流石に盛り過ぎたとは思っている。
(い、いいんだよ……雰囲気重視なんだから)
それからしばらくして、他の魔人たちも広間に集まってきた。
いよいよダンジョンをお披露目する準備が整ったのだ。
(さてと、これから地上への出入り口を開通させるわけだが……その前に少しいいかな?)
アムが入ってるダンジョン・コアの前に並ぶ四人の魔人たち。
俺は視界スキルで彼等の顔を見つめながら少し間を置いて話し始めた。
(俺がダンジョンになってから9ヶ月ぐらい経ったと思う。右も左も分からずダンジョン作りを始めて色々なことがあった。きっと一人なら俺は途中で発狂でもして野垂れ死んでいたはずだ)
長いようであっという間の9ヶ月だった――。
(でも皆と出会えたから俺はここまでやってこれた。だからスッゲー感謝してる。ありがとう)
俺は心からの想いを述べた。
「礼には及ばぬ。我らの封印を解いてくれたのはサジン……御主だ。感謝するのはむしろ我等の方だろう」
アスラは腕を組んだ姿勢のまま微笑みを浮かべる。それに同調したファラやバランシュナイヴもまた納得するように頷いていた。
「いや恥っず! そないなこと真顔で言うなや! サブイボたつわ!」
シスは相変わらずだな。まぁ彼女らしいけど。
短い付き合いながらも彼等のことは何となくわかってきた。シスは毒舌で面倒臭がりだけど、実は色々と考えてくれている。
俺が気付かなかったダンジョンの構造の問題点などを見つけてくれたり、それとなくアドバイスをくれた。
アスラは戦闘に役立つスキルや心構えを教えてくれた師匠みたいな存在だ。
そしてバランシュナイヴやファラは、魔法で大きく貢献してくれたのでダンジョン作りは加速度的に進めることができた。
「サッジーン☆ 私も褒めて褒めて♪」
(いや……アムは基本なにもしてなかったでしょ。最近は特に役に立ってないからね)
「ぴえん!」
ダンジョンの拡大が軌道に乗り始めてからは、ぶっちゃけアムはこの広間でダラダラ過ごしていただけである。本人は瞑想とか言ってたけど、どう見ても昼寝しているようにしか見えなかった。
まぁクリスタルの中から出れないんだから仕方ないけど。
だけど――、
(冗談だって)
この感情が俺の勘違いでなければ、最初に会えたのがアムで良かったと今では思える。
彼女の屈託のない明るさが俺をいつでも前向きにさせてくれた。
いつの間にかアムの存在が心の拠り所になっていた。
運命共同体――。
あの言葉が俺にもう一度生きる意味をくれた。これまでは爺ちゃんとの思い出を糧に自分に出来ることを探してきたけれど、いつの間にかそれは変化していった。
今の俺はアムが背中を押してくれるだけで、その先が未知でも一歩を踏み出せる。
(俺にとってアムは――)
「サジン……?」
(……いや、やっぱ何でもない)
流石に皆がいる前で言うには恥ずかしい。
「えぇー!」
(さぁてと、開通式に行くとしますか!)
「そこまで言って誤魔化すなんてナシだよぉ☆」