第28話 恙ないダンジョンライフ③
俺は早速〈義体〉スキルで自分を増やしてみた。
(とりあえず15体ぐらいでいいか)
主な役割としては給食係、掃除係、その他雑用係を各魔人の眷属に対し3体ずつ。残りは加工品の製造とダンジョン内の各区現場監督用ってところだな。
〈自動制御〉はあんまり複雑すぎる命令は与えられないから、画一的な行動を繰り返すNPC的な役割になる。
俺が15体いると少し気持ち悪いから、頭部だけでも少し作り物っぽく加工しておこう。
そんな感じで俺の義体自動人形が揃った。
(さぁ行け! 俺の分身たちよ!)
「「「サーッ!」」」
自動人形たちは謎の掛け声で応え、与えられたプログラムに従い持ち場へ散っていった。
(……そんな設定は別にしてないんだけど。ていうかどこの卓球少女だよ)
ともかくこれでダンジョンの整備は勝手に進むだろう。
なので今の内にアムの引っ越し作業を済ませることにした。
俺はダンジョン・コア広間に視界を移し、クリスタルの中で退屈そうにしていたアムに心話で声を掛ける。
(そんじゃ引っ越しするぞ、アム)
「ハイハーイ☆ 待ってましたぁ♪」
ちなみに現在ダンジョンは5階層に分かれている。
いまコアがあるのは2階層なので、これを3つ下の階層まで運ばなければならないわけだ。
最低でも10階層ぐらいまで作る予定だが、それはその時にまた移動させようと考えている。
(えーっと、確かクリスタルを囲む檻的な物を造ればいいんだったな)
「そそ☆ このクリスタル自体はサジンの〈操作〉じゃ動かせないけど、〈操作〉できる物で囲えばイケるよ♪」
(ほいほいっと)
俺は〈加工〉スキルで鉄檻を造り、その中にクリスタルを閉じ込めた。
そして〈操作〉スキルを用いて最深部の5階層まで運び出す。
その道すがらアムと雑談していた。
「サジンと出会ってからまだそんな経ってないのに、もうずっと前のような感じがする」
(そうかぁ? 俺は色々あり過ぎて時間経つの早く感じるけどな)
俺がダンジョンに転生してから七ヶ月ぐらいが経った。あれ、八ヶ月だっけ? 忘れたわ。
最初の三週間はずっと独りで、それからアムと出会ってダンジョンを拡大させながら聖楔の攻略したりとすることが増えていった。
毎日どんなダンジョンにしようか考えて頭を悩ませたり、ある意味で充実したダンジョンライフを送っている。
仲間が増えたことも単純に嬉しかった。
まだそこまで仲良くなったわけじゃないし、皆のことは知らないことばかりだけど。
それでも嬉しかったんだ。だけど――、
(アム、俺……間違ってないよな?)
時々ふと考えてしまう。
俺がダンジョンに転生した意味がもしかして他にあるんじゃないかって。
冗談交じりで最初に言ってたけど、どうして人間やモンスターではなくダンジョンなんだろう。
「サジンの考えてることは何となく分かるよ。でもそれはきっとサジンにしか答えが出せないものだから」
(……だよ、な)
「私はいつまでもサジンを応援する。だからもし答えが見つかったら教えてね」
(ふっ、あるのかもわかんねえぞ。クソったれな神様の気まぐれっていう可能性もあるし)
「その時は皆で神様をブッ飛ばしにいこう☆」
アムはそんな物騒なことを口にしながら、クリスタルの中で悪戯っぽく笑っていた。
ダンジョン・コアを最下層に用意していた隠し広間まで運ぶと、そこにはファラが待っていた。
(おっ、ファラどした?)
「マ……」
(マ?)
ファラは何か言いかけて自らの手で口を覆い隠す。
そしてオドオドと目を泳がせている。
(そんなに怖がらなくても平気だから――、言ってごらん?)
「ボク、け、結界魔法……で、できるから」
(うーん……あぁ、そういうことか!)
つまりファラはこの広間に魔法で結界を張ってコアを護る提案をしてくれたのだ。
一応ここは見つからないよう隠し部屋として作ったが、物理的に隠蔽した上で魔法による結界もあった方が安全性が増すしな。
(じゃあ頼むよ。俺は魔法とか使えないから助かるわ)
「う、うん」
ファラは小さく頷くと、手にしていた聖杖を掲げて呪文を唱えだした。
「オルレア……シュタリフ……シュマルシャフ、フーデア!」
呪文の詠唱後、聖杖の先端が輝く鍵の形状へと変わり、虚空に鍵穴が出現する。
鍵となった聖杖をファラが鍵穴に差し込み施錠するように捻る。
すると神々しい光がドーム型の広間を覆うように広がっていった。
「こ、これで安全だと思うよ。お兄ちゃん」
俺は視界に表示された結界の効果を確認する。
【対物理障壁レベル255】
【対魔法障壁レベル255】
【対スキル障壁レベル255】
【認識阻害効果】
【魔力吸収効果】
【魔力反射倍化効果】
【永続回復効果】
(お……おっふ)
多分レベル255ってカンストだよな。他の効果も何かヤバそうだし。
ファラも伊達に魔人じゃないってことか。とんでもねえな。
「ファラちゃんありがとー☆」
「うん、じゃあボク戻るね」
そう言って小さくお辞儀をした後、ファラは自分が担当する階層まで戻っていった。そしてファラと入れ替わる形でやってきたのはアスラだった。
「サジンよ、聖楔エリアまでの道が開いた」
(あいよ! ラストの魔人攻略やりますかッ!)
「頑張ってね☆」
俺とアスラは四人目の魔人を解放すべく最後の聖楔エリアへと赴く。
是迄とこの先々――、転機があったとするなら俺はここで一度振り返るべきだったのかもしれない。
この時の俺は恙ないダンジョンライフに、薄く切れ目が入っていることに気づかずにいたんだ。
サジンがダンジョンに転生してから7ヶ月ぐらいでしたので修正しました。ごめんね