第26話 恙ないダンジョンライフ①
「なぁサジンよぉ、減るもんやないしヤろうや」
(いや無理無理)
「別にええやん。ていうか暇やねんてマジで」
シスが仲間に加わってから三日ほどが経った。
その間、こうして毎日のように彼女は俺と戦いたがっている。
(そんなに戦いたいならアスラに頼めばいいじゃん)
「アスラは残ってる聖楔の相手があるとか言って構ってくれへんねんもん」
(だけど俺じゃ相手にならないってば)
俺がアスラに勝てたのは聖楔によるステータス低下があったからだ。
その呪縛から解放されたシスの相手が務まるはずがない。
それよりも俺はもっとダンジョンの建設に注力していきたい。
今のところ着々と拡大は進んでるし、リザードマンとシャドウダンサーでモンスターの増員も出来ている。
他に必要なものといえば、やっぱり財宝の類だな。
せっかく冒険者が潜ってきても、「何もありませんでした」じゃ過疎ってしまうだろうし。
貴重な宝石、鉱石類はストックしている物で補えるとして、後は武具や魔法アイテムか。
武器は鉱石を加工すれば何とかなりそうだけど、正直に言えばもっと凄い物とかが欲しい。
いわゆる伝説級の武具ってやつだ。
「おいサジン聞いてんのぉ!? 無視してんちゃうぞボケカス」
(ちょっと考え事してるから待ってね)
「こ、こいつ……意外と肝っ玉座っとんのぉ。仮にも鬼神の姫なんやぞアタシは」
(鬼神……? ふむ、シスのその刀って良い物なの?)
「そらそや。コイツは鬼天正宗いうて、そんじゃそこらの刀とはわけがちゃうで。霊験あらたかな破邪の大太刀や」
鬼なのに霊験あらたかな破邪の武器持ってるんだ。なんか属性が逆転してるというか、食い合わせ悪そうな気はするけど。
(その刀ちょっと借りてもいい?)
「はぁ? 図々しいにもほどがあるっちゅうねん――」
やっぱダメか。
「すぐ返すんやで」
(いいんだ!?)
シスは背負っていた鬼天正宗に床に置いた。
俺はそれを〈倉庫〉に収納する。これで一旦所有権は俺の物になり、後は〈複製〉スキルで二つに増やしてみた。
今更だけど、俺の使えるスキルの中で一番壊れ性能だと思っているのはこの〈複製〉だ。
一度入手したアイテムをノーリスクで増やすことができ、尚且つ時間による消滅などもない。
この事をアムと話した時は、ダンジョンという種族および職業のユニークスキルなのではと語っていた。
確かにこの性能のスキルを一個人がもし持っていたら破格すぎる。
【鬼天正宗】
攻撃力:+2550
敏捷性:+999
耐物理:+999
耐魔力:+999
装備可能レベル:255
装備可能職業:剣士、戦士、侍、勇者
※固有武器のため素材抽出はできない
つよ! 本当にとんでもない武器だな。
ラットン変異種が持ってた戦槌は攻撃力が+250程度だったことを考えると10倍以上か。
その代わり素材の分離はできないってことか。予想では玉鋼とか採れると思ってたんだが。
それからシスに鬼天正宗を返し、複製品はとりあえず倉庫にしまっておいた。
もしかしてアスラのガントレットも同じレベルの武器かもしれない。
この仮説が確かなら聖楔の四人分は伝説級武具を確保できるな。アスラが戻ってきたら相談してみよう。
(ところでシス達はなんで聖楔に封印されてたんだ?)
まぁ普通に考えれば強大すぎる力を持った魔人だからって理由だろうけど。
「……理由なんかあらへん。あるとすれば、ただ役割を終えたからや」
(役割って?)
「過去を振り返るんは性に合わん。知りたきゃアスラや他のもんに訊いたらええ」
(そっか……まぁいっか)