第21話 聖楔の魔人戦③
爆発に晒されている中でアスラの能力の断片を理解した。
奴の爆破は〝伝播〟するんだ――。
起爆させた物質に触れた物質がさらに爆発物となる。言うなれば無限爆破能力。
条件は分からないが、そういう類のカラクリがある。
「……ぐっ!」
『サジン!』
「まだ、だ、大丈夫だ……うっ」
槍の破片が小さいこともあり、爆発の威力もさほど強いものではなかった。
まだ五体満足。まだ戦える――。
しかしどうすればいい。スキルで造り出した物質は端から爆破される。
まずはアスラの攻撃自体を封じないと話にならん。
そんな方法がどこに――、
「御首級、頂戴」
「だからさっきからそれ何なんだよ! 同じことばっか言いやがって!」
『聖楔に囚われてるからだよ。自分の意志じゃないの』
アムはアスラのことを知っている様で、寂しそうな声音でそう呟いた。
何か事情があるようだけど、今はそれどころじゃない。
手加減なんてしてたら俺が殺される。
「いくぞッ!」
俺はアスラの注意を引くように回り込みながら駆けだす。
アムの言う通りアスラが囚われているだけなら、あの聖楔を壊すことができれば解放することが出来るはずだ。
そうなればこれ以上戦わずに済むかもしれない。
俺は試しに1本だけ造った石槍を聖楔に向けて射出する。
(さぁ、どうでる?)
アスラは石槍には反応を示さず、その場から微動だにしなかった。
「――ダメかッ!」
石槍が聖楔に当たる直前、光の障壁に阻まれ弾き飛ばされた。
生半可な攻撃じゃ破壊できそうもない。あるいはアスラの反応を見る限り、聖楔自体は破壊不能なオブジェクトの可能性もある。
これ以上、無駄弾を撃って消耗するのは得策じゃない。
やはりアスラを倒す以外の選択肢はないってことか。
『サジンなら大丈夫……私たちの約束は絶対に負けっこない!!』
「はっ……ははは」
まったく、あの娘は何の根拠があって言ってるんだか。
戦ってる俺の身にもなれってんだバカ野郎この野郎。
それでも心の――、魂の奥底から勇気が湧いてくる。
誰かに支えられること、信じてもらえることがただ嬉しい。
生きていることを実感できる。
「あれこれ考えるのはもうヤメだ。――知ってたか? 俺は元々頭が良くねえんだ」
正面からいってぶっ飛ばす。
爺ちゃんと出会う前、つまり俺がグレてた時は自分よりもデカくて力の強い奴とは、何度も喧嘩したことがある。むしろ無意識にそういう相手を選んでいたんだ。
俺を虐待していたクズの父親とは違うんだってことを証明したかったんだ。
拳に乗せるのは純粋な怒りと憎しみだけ。受ける痛みは歯を食いしばって耐える。
こいつはただの喧嘩だ。
勝って自分を誇りたいわけじゃない。
「ただ絶対に負けたくはねえんだよ――ッ!!」
「御首級、頂戴!」
「〈複合化スキル/強化蛍石〉!」
蛍石を強化した閃光弾をバラ撒き、アスラの視界を奪う白光が広間を染め上げる。
肉薄できる一瞬の隙ができれば何でも構わない。
俺の予測が正しければ、アスラに勝てる可能性があるのは超接近戦だけだ。
「っ!?」
閃光で眩み、眇めた目の端でアスラは捉えた影を追う。
「御首級、頂戴ッ!」
薙ぎ払われた裏拳が〝それ〟を捉え砕き割る。そしてすぐさま爆散した。
「ハズレ」