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第20話 聖楔の魔人戦②

 ハンマーの衝撃音がダンジョン内に響き、砕かれた聖楔エリアの外殻。

 やがて土埃が晴れるのを待って、俺は内部に足を踏み入れた。


「ここが……」


 聖楔エリアは菱形の大広間になっていた。

 俺とアムがいつもいるダンジョン・コアがある広間の三倍以上の広さはあるだろうか。

 まさしく戦う為に用意された決闘場の様相を呈している。


 そして広間の中央にそびえ立っている謎の柱。

 あのモノリスの様な石柱が聖楔だと思われる。表面にはスキルツリーと同じような古代紋様が刻まれ淡い光を放っていた。


『サジン、気を付けてね』


 アムが心話で俺に思念を送ってきた。

 彼女とはスキルツリーの〈視界〉レベルを上げたことで同じ視界を共有できている。


「あぁ、――ッ!?」


 聖楔エリア内に足を踏み入れてすぐ、破壊した背後の壁がまるで生き物のように復元しだした。


「と、閉じ込められた?」


 壁に触れて確かめてみたが、明らかに外殻とは強度が異なる材質だった。

 入るのはさほど難しくないが脱出は易々とできないってわけだ。


 RPGでもイベントやボス戦からは逃げられないってのがセオリーだからな。これくらい当然か。


 そして息つく間もなく、聖楔に施された防衛機構とやらが機動する。

 微震を伴って広間全体にモノリスから古代紋様の光が走り出した。


「――来るッ!!」


 モノリスの宙空に魔法陣が浮かび上がった。

 そこから姿を現した魔人の姿に俺は瞠目する。そして捕捉した視界内に敵名が表記されていた。



彼方(ビヨンド・ザ・)の竜皇(ドラゴンロード):アスラ・ゼファード=トライゼメキス】



「これが……魔人」


 大きく広がった獣翼。身体は人型だが頭部は竜のそれ。

 体躯は3メートル弱程度。確かに大きいが、ラットン変異種に比べればまだ小柄な部類だ。

 蒼い竜鱗を纏った肉体も筋骨隆々というほどではなく、いわゆる引き締まったソフトマッチョ的な感じ。銀装飾が付いた腰布を巻き、拳を覆っているのはナックルガード型のガントレットか。

 見るからに物理系特化の武闘家モンク職ってところだな。


 魔人というからエグい悪魔染みた奴を想像していたが、普通にカッコいい竜人タイプ。

 無駄に俺の少年心をくすぐってくるんじゃねえ。


 竜人アスラはゆっくりと、そして無警戒に俺との距離を詰めようと歩を進めだした。

 言い知れぬ威圧感を受け身構える。背筋に走る悪寒が魂に告げている。


 ラットン変異種とは比にならないその強さを――。


「――ッ!」


 俺が瞬きした刹那、アスラの姿が視界から掻き消える。

 そして直後に謎の衝撃が腹部を襲った。


「がッ……は!」


 小規模な爆発を伴って俺の身体はボールの様に吹き飛び、土埃を巻き上げながら地面にバウンドを繰り返し転がっていく。

 まさしく一閃と呼ぶに相応しいアスラの攻撃は、俺の眼には視えてはいなかった。人間の動体視力で捉えるのは不可能な速さである。


御首級みしるし……頂戴」


 本来、今の一撃で普通の人間だった頃の俺なら死んでいる。

 しかし寸前で発動させていたスキルに助けられたことで、衝撃に反して義体のダメージは軽く済んでいた。


「一体何をされた!? 魔法か!?」


 コイツとんでもなく速い。ゲッシュで強化されてても目の端で影を追うのがやっとだった。

 それと謎の衝撃の正体。あのガントレットで殴りつけた物体を爆破させる能力か?



『大丈夫だよサジン。やっぱり聖楔の影響でステータスが大分落ちてる』


 これで本来の力じゃないってのが逆に末恐ろしいっつうの。

 何にしても接近戦は分が悪いな。


 だったら――、


「〈複合化(コンポジション)スキル/銀の穿孔(ミストルティン)〉!」


 俺は〈生成〉〈加工〉〈複製〉〈自動制御〉の4スキルを〈複合化〉させ、ミスリル素材で造り出した無数の槍を撃ち放つ。

 〈複合化〉スキルによって生成時から全ての工程が済むようにプログラムされている。

 相手にとっては何も無い空間から槍が飛んでくるので、攻撃魔法のような錯覚を受けるだろう。


「このまま遠距離から削りながら勝機を見出す!」


「御首級、頂戴」


 視界を覆いつくす槍を前にして、アスラが両拳を握りながら身体を大きくのけ反らした。

 そして反動をそのまま解き放ち高速の鉄拳連打。

 アスラが拳から打ち放った〝何か〟によって、槍のことごとくが爆散していく。


 広間は爆ぜた銀槍の破片が雪のように降り注ぎ、戦闘の最中とは思えない幻想的な空間になっていた。


「遠当て!? 空気を殴って飛ばしてるのか!」


 おそらく拳で殴った任意の物質を爆発物に変える能力。

 攻撃用の武器も、防御用の壁もメイン能力が物質を生成する俺との相性最悪じゃねえか。


 クッソ、考えろ……何か奴に通用する手立てを。




「御首級、頂戴――――、つかまつる」


『サジン! 足を止めちゃダメ!!』



 一瞬の閃光。

 周囲に煌めきながら落ちていく銀槍の破片が連鎖的に爆発していき、俺はその只中に晒されていた。

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