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第19話 聖楔の魔人戦①

 俺は命を懸ける覚悟をアムに問われた。

 たかがダンジョン内にモンスターを配置したいという理由でだ。


 普通ならそんなリスクを取る必要はない。

 ただ生きていくだけなら今のままで困ることもない。このままアムと二人で平々凡々と異世界ダンジョン人生を送るのだって悪くはないだろう。


 でもそれじゃあ前には進めない――。

 いつか爺ちゃんも言っていた。



《やるとなったら俺は死んでも完成させる。雨が降ろうが槍が降ろうが関係ねえ。サジン、手前も俺と同じ道を目指すっつうなら、半端に投げ出すんじゃねえぞ》



 任せろ爺ちゃん、覚悟ならとっくに決まってる。


(やるさ……魔人でも神でも相手になってやらぁ)


『――まぁ、サジンならそう言うと思ったよ☆』


 これまで渋ってきたアムも観念したように笑みを浮かべた。


(それで聖楔って何処にあるんだ?)


『ちょっと待ってね。今から探ってみるから』


 アムは自身のこめかみに指を当てながら目を閉じる。一休さんかな?


『むむー、視えます……感じます。来てます来てます。聖楔の場所は――あっちです!』


 カッと目を見開き、アムが指差した方角。

 そこは現在いるダンジョン・コアの広間から北西に向けられていた。

 勿論のことダンジョンの壁しかないのだが、そこを掘り進んでいけということだろう。


(よし、じゃあ早速ドリル使って掘ってみるか)


『あ、やっぱ違うかも☆ こっちかな、いや違う……ん~多分そっち?』


 ――大丈夫かコイツ。


 戦う覚悟決めた先から心配になってきたぞ。


 その後、アムはメチャメチャに悩んだ結果、結局最初に示した方角であるとの結論を出した。


(はぁ、あっちで本当にいいんだな?)


『だいじょうブイ!』


 あれだけ迷ってたくせに、どこからその自信に満ち溢れたVサインが出てきたんだこの娘は。

 まぁ俺には感知できる術もないし、今はアムを信じるしかないか。

 めっちゃ不安だけどね。


『掘っていけば聖楔エリアの外殻にブツかると思うから、そしたら戦う準備しようね』


(準備ってのはさっきのゲッシュ(縛り)のことだな。どうすればいい?)


『ただ私にゲッシュの遵守を宣言してくれればいい。それだけで成立するものだから』


(随分と簡単なんだな)


『そうだね。でもゲッシュは誓う側とそれを承認する側、つまり最低二人いないと出来ないし、縛りを第三者に知られると不利になるからね。手順自体は簡単で効果は強力な反面、それ相応の脆さもある。だからこれは絶対に二人だけの秘密だよ』


(……わかった)



 それから俺はアムにゲッシュを誓い、続いてスキルツリーから〈義体〉スキルを取得した。

 戦闘で使えるスキルの複合化も済ませ、これで魔人と戦う準備は整った。


 この時、俺は魔人との戦いに意識を集中していたあまり重要なことに気づけなかった。

 しかしそれが後に、窮地を脱する起爆剤(きっかけ)となるとは思いも寄らなかったわけで。




 ――五日後。


 北西に向かって掘り進んでいたドリルが砕けて壊れた。

 アムの言っていた聖楔があるエリアの外殻に辿り着いたのだ。


『サジン、ここから先はもっと硬度の高い素材じゃないと裡側には入れないよ』


(みたいだな。手持ちの素材だと金剛征石(アダマンタイト)か)


 金剛征石もラットン変異種が持っていた武器から、素材としてストックした鉱石のひとつ。

 名前の通りダイアモンドに非常に近い質感だが、その硬度はさらに高く、おまけに磁気を帯びているという特性がある。


(このまま外殻を破壊したらすぐに魔人と戦闘に入る)


『頑張ってね。私も出来るだけ心話でサポートはするから』


 俺は〈義体〉のスキルを唱え、戦闘態勢に入った。

 義体で作られた肉体は前世の俺と見た目はほとんど同じだ。

 スキルを取得してからラットン変異種が2度ほど現れたので試したが、ゲッシュの効果により通常の人間を遥かに超えた身体能力をこの義体は有している。


 しかしこれには一つ問題があり、それはスキルを唱えて造り出された義体は全裸であることだった。

 本物の肉体でないとはいえ流石にちょっと恥ずかしい。

 なので今回は加工スキルで防御力を補う意味も兼ねて服を用意することにした。

 ちなみに義体状態だと声が出せる。

 変異種戦で自分の肉声を久しぶりに聴いた時は、嬉しくてちょっと涙が出そうになったぞ。


「〈加工〉。えっと……とりあえず学ランでいいか」



 見た目は前世で通っていた高校の学生服だが、素材自体はミスリル製なので軽くて頑丈だ。

 そして同時にアダマンタイトを加工したハンマーを手に、俺は聖楔エリアの外殻前に立った。



「よし、準備オッケー。いくぞ」


 俺は大きく深呼吸をし精神を統一する。


 この戦いに勝てれば俺はまた一歩先に進むことができる。

 そんな想いを胸に、火蓋を切って下ろすがごとくアダマンタイトのハンマーを外殻に叩きつけた。




 聖楔の魔人戦――、開幕。

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