第17話 とんとん拍子は危険なフラグ
鉄を手に入れることができた。こうなると話が早い。
後は加工スキルで鉄材を成型して掘削に使える道具を造り出すだけだ。
ということで早速、鉄製のドリルを造ってみた。
そしてこれを複製スキルでたくさん複製する。
(よし、これだけあれば十分だろう)
現在のレベルで1日に複製できる限度数は180個だが、操作スキルで同時操作できる数は70個までなのでとりあえず70個分を用意した。
これらを操作スキルで回転させながら穿つ。
操作スキルさえあればモーター等の電力を必要としないのが良い。
そしてこれらの操作を一律で行える新スキルも既にツリーから取得している。
【自動制御〈オートプログラム〉】
∟スキルの効果を自身が定めたルールに従って自動で実行できる。
この自動制御スキルのお陰で勝手にドリルは壁を掘り進み、その間俺は他の作業に専念することができる。
とはいえ今のところ壁を掘る以外にすることはないけど。
自動制御のスキルを取得したのは、その先のツリーにある別のスキルを取りたかったからだ。
そのスキルとは――
【複合化〈コンポジション〉】
∟複数のスキルを1スキルにまとめることができる。複合数はレベルに依存。
∟複合されたスキルは昇華され新たなスキル名が付けられる。
必要SP:5000
この複合化スキルは是非とも欲しい。
今使えるスキルはどれも便利だが、工程が細分化され過ぎていてまどろっこしいのが欠点だ。
これらの工程をパソコンでいうところの、ショートカットキー的に使えれば効率が段違いに跳ね上がるはず。説明書きによればスキル自体も強化されるようだし一石二鳥だ。
しかし必要SPが全然足りない。
自動制御スキルを取得した時点で残SPはたったの500ちょい。
(あー、またモンスターでも現れねえかなぁ)
『まぁ多分その内でてくるよ』
(その内っていつだよ)
『ん~、一週間後くらい? 知らないけど』
(知らねえのかよ。じゃあ一週間の予想もアテにならねえじゃん)
『気長に行こうよ☆ 心の余裕は命の余裕、でしょ?』
(そいつは違いない。しかし暇だ)
『暇だねぇ』
(で……アムって結局何者なんだ?)
『まだ秘密だよ♪』
(はいはい、そうですか)
こうしてアムと益体もなくダラダラしている最中も、70個のドリルがゴリゴリと壁を削っている。
そのパワーは想定していたよりも強力で、1時間足らずの間に5メートル以上は掘り進んでいた。
ちなみに暇すぎるという理由から、アムと尻取りをしていたが彼女の言葉のほとんどが異世界用語ばかりで全く成立しなかった。
そんなこんなで三日ぐらいが経過した頃――。
(よっしゃ! キタァ――――ッ!!)
地響きと共に上空から巨体が降ってきた。
アムの予想よりも早く現れたラットン変異種の二体目である。
「ゴアアアァッ!!」
(前の個体と装備が違う?)
手にしている武器が戦槌ではなく大剣、そして軽鎧のような防具まで着装している。
しかもその大剣は赤熱化しており、炎系の属性が付与されていた。
『サジン、気をつけて!』
(問題ねえ! その為に色々と準備しておいたんだからなぁ!)
ダンジョン・コアに向かって来る変異種――、
それを俺は正面の視界から待ち構えていた。
以前もそうだったが、コイツらはコアへの攻撃以外の行動パターンが無い。
〝コアを破壊する〟という単純な命令のみを与えられ洗脳・操作されているようだ。
であるなら倒すのは難しくない。
(トラップ発動!)
俺は変異種が所定位置に踏み込んだ直後、操作スキルを唱えた。
円形の広間の壁に備え付けていた無数のドリルが中央に殺到し、変異種の身体を串刺しにする。
ドリルは壁を掘削している物とは違い、貫通力と殺傷力を底上げした攻撃用だ。
スキルの都合上、元の体積を超える大きさにはできないが、細く長くすることで武器としてのクオリティは洗練されている。
「――ッ! ゴブォ……グギァ……ッ!」
変異種は全身を貫かれ室内に大量の血飛沫が噴出する。
装備していた鎧の防御力も大したことなかったようで助かった。
(とどめ)
ダメ押しとばかりに、操作スキルを再度唱える。
勿論のことあらかじめ用意しておいたのはドリルだけじゃない。
鉄材をワイヤー状に加工し、そこに括りつけた薄く研ぎ澄まされた扇状の刃。
即ちギロチンである。
変異種の横合いからギロチンの刃が振り抜かれ、胴体から頭部が切り離される。
そのまま変異種の巨体は石床に倒れ込んだ。
それは広間に出現からおよそ27秒間の出来事だった。
(楽勝ッ!)
【レベルが22になりました】
『おぉ! さっすがサジン☆』
(もうラットン程度は敵じゃないな。よっし、戦利品をいただくとしますか)
今回入手したのは大剣の素材に使われていた火廣金。
そしてついでに軽鎧の青銅。
俺のいた世界じゃ火廣金なんて伝説上の鉱物だったが、こっちの世界ではそうでもないらしい。
ここからは何かと順調に事が運び出した。
定期的に出現するラットン変異種。
その装備は回を追うごとに変わり、様々な素材が手に入った。
さらに変異種は今となっては強さの割りに経験値が美味く、レベルも瞬く間に上がっていった。
しかし、この先に待ち受けている試練をこの時の俺はまだ知る由も無かった。