第16話 置き土産
アムとの同期を終えた俺は、目覚めるといつものダンジョンに戻っていた。
当然のこと肉体は無いままだ。
視界の先にはダンジョン・コアの中で瞳を閉じているアムがいる。
(ふぅ……)
『にひ、ゆうべはおたのしみでしたね☆』
ほぼ同時に目覚めたアムは頬を薄っすらと染めながらそんな事を言ってきた。
(あれは、その……何というか、同期に必要だっただけだし。気の迷いみたいなもんだし)
『あははっ、サジンは照れ屋さんだなぁ♪』
考え無しすぎる自分の行いに、今更ながら罪悪感染みたものを俺は覚えていた。
色々と青少年的な何かが危ない気がする。
『そんじゃまぁ同期の成果を確認してみよっか?』
(はいはい)
言われた通り、俺は視界に映る自身のステータスを見てみることにした。
【名前】アヅマ・サジン
【称号】名も無きダンジョン
【レベル】18
【種族】ダンジョン
【職業】ダンジョン
【ステータス】
HP:7500/7500
MP:2000/2000
ST:∞
POWER:0/0
SPEED:0/0
LUCK:50
取得SP:2680
【スキル】
・視界〈ヴィジョン〉:∞
∟ダンジョン内を覗くことができる。ただし未知のエリアは一度視界を記憶する必要がある。
・生成〈ジェネレート〉:180/180
∟素材を創り出せる。創り出せる種類は一度入手し倉庫にストックされている素材に限る。
・操作〈オペレート〉:70/70
∟生成された素材を操作できる。操作回数自体は無制限だが、複数同時操作はレベルに依存。
・複製〈デュプリケート〉:180/180
∟生成された素材を複製できる。複製不可能な物質に対しては効果が発揮されない。
・倉庫〈インベントリー〉:∞
∟入手したアイテムを保管できる。収納と排出は自由に行えるが生物は保管できない。
・言語〈トーク〉:∞
∟この世界の言語、文字等を理解できる。
【魔法】
・未習得
分かり易くなっている! 見易くなっている!
以前のスキルとは名称から変更・改善され、その効果や使用回数までも記載されていた。
これが同期の成果か。まさしくアップデートされたって感じだな。
もはや前のがどれだったのかも分からないスキルすらある。
多分〈複製〉ってのが前のスキルでいう〈生産C〉だろう。
複製する物を指定してなかったから、或いは複製する物自体が無かったから唱えても何も起こらなかったってことか。
となると残ってるスキル的に〈倉庫〉が以前の〈吸排D+〉だな。
大体〈吸排〉って……すげぇ単語の意味を深読みしてようやく理解できるかどうかだろ。
素直にアイテムボックスとかで良かった気もするが、まぁ粗方整理されて良かった。
何より使用回数がキッチリ明記されているのが素晴らしい。
変異種戦の時は意識しながら戦えてたけど、長期戦や戦況が荒れたりすると回数間違えそうだし。
(取得SPってのはツリーでスキルを解放するためのポイントだな)
『だね☆ ダンジョン拡げるなら今のスキルじゃ足りなそう』
(前々から掘削に使えるスキルは取るつもりだったんだ。確か〈錬成〉っていうのがあったはず……あれ?)
俺は再び床に描かれたスキルツリーを確認する。
すると少しだけ記された異世界文字が変化しており、同期の影響がツリーにも反映されていた。
以前は〈錬成〉だったが、今は〈加工〉に変わっている。
【加工〈クラフト〉】
∟生成した物質の形状を変化させることができる。ただし体積、質量、材質は変化しない。
必要SP:300
(やっぱりこれは使えるな。素材を成型できるならアレも造れるはず)
俺は頭の中でダンジョンを拡大する手順を整えていた。
加工は必須スキルだが、それだけではやはり足りない。
現状、俺の手元にある素材は石材だけだ。ダンジョンの掘削にはもっと硬度の高い素材が要る。
つまりは鉄鉱石の類だ。
鉄さえ手に入れば加工スキルで様々な掘削道具を造れる。
(アム、鉄鉱石とか金属はどうすれば手に入るかな?)
『ん~、壁を掘っていけばどっかの土中にあると思うけど闇雲だと効率悪いよねぇ』
(だよなぁ)
操作スキルで石材を壁にブツけまくって掘る。不可能じゃないけどアムの言う通り効率は最悪だ。
壁を壊せる物か――。
(あ……)
『あっ☆』
アムも俺と同時に気がついたようだ。
(戦槌!)
『戦槌!』
そう、ゴリラネズミことラットン変異種が持っていた戦槌がこの部屋にある。
俺は早速ラットン変異種を圧し潰していた石材を除け、床の下敷きになっていた戦槌を発見する。
(鉄ゲット! これで掘削道具が造れる!)
『やたー☆』
変異種には命を脅かされたが、その甲斐もあって良い置き土産を残してくれたな。
その後、俺は倉庫にウォーハンマーを収納し、生成スキルで鉄を創り出せるようになった。