第10話 ダンジョンスレイヤー
『それで君の名前は?』
(佐甚だ)
『サジン……へぇ、強そうな良い響きね』
こっちの世界ではそういうイメージなのか。
前の世界じゃ名字か名前か判りづらいってよく言われたものだが。
とりあえず、アムに訊きたいことが山ほどあるので質問をしてみることにした。
俺はこの異世界のことや、自分の置かれている状況に対しまったくと言っていいほど無知なのだから。
(そもそも何でアムは俺のことが見えてるんだ?)
今の俺には肉体が無い。
この無機物であるダンジョンそのものが俺であり、個体として認識できていることが不思議だ。
『あぁ、そのことね。それは私の眼がちょっと特別で魂を知覚できるからだよ。私の眼には君が揺らめく青い炎の様に視えてる』
アムの話を聞いた俺は変異種との戦いを思い出した。
あの時の憶測だった〝魂の座標〟という認識は間違っていなかったようだ。
俺はこのダンジョン内に魂を宿しており、その位置を視界スキルによって移動することができるというカラクリなわけか。
『魂の色ってそれぞれ皆違うんだよね。ちなみにサジンの色は私の好み♪ 胸がすく様な天色の炎』
(じゃあ次の質問)
『華麗にスルー!?』
(自分に視えない魂の色とか褒められたところでピンとこないんだよ)
『にひっ、サジンもそのうち視えるようになるよ。なんてったって運命共同体だからね』
やたらと運営共同体を推してくるな。まぁ実際そうなんだろうけど。
(それで、アムは何者なんだ?)
『……』
(なぜ黙る)
『それって答えないとダメ?』
アムは甘えたような上目遣いで問いをはぐらかそうとした。
俺に知られると何か不都合なことがあるようだが、詰問したところで良い方向にはいかないだろう。出会ったばかりで互いの信頼関係も無い間柄だ。
(はぁ……いや、話しても良いと思ったタイミングでいいや)
他人に何かを求める時はそれなりの筋と覚悟を通す必要がある。
自分が全うできないことで他人を咎めるべきじゃないと爺ちゃんがよく言っていた。
それが一番周囲からの信頼を失い、己の価値を下げるからだと。
『あーん! サジン優しい☆ そういうとこ好きだゾ!』
単純に俺が女に甘いだけかもしれん。
俺は幼馴染の少女・花火のことを思い出していた。元気でやってっかなアイツ。
まぁそれはいいとして――。
(あのラットン変異種とかいう魔物みたいなのって、また現れたりするのか?)
『多分ね。あれはダンジョンを殺すための尖兵みたいな存在だから。正確に言えば魔物じゃなくて、さしずめ〝ダンジョン殺し〟ってところかな』
(何でそんなことをする必要があるんだ? ダンジョンつったらモンスターの住処みたいなモノだろ)
『その話をするとちょっと長くなるんだよねぇ。それでもいいなら』
ここは割と核心だな。
また攻めてくる可能性があるなら今後の対策も必要だし、アムの話は聞いておいた方が良いだろう。
(それじゃあ頼む)
それからアムは滔々とこの異世界のダンジョンについて語り始めた。
『ダンジョンって存在そのものが巨大な魔力の貯蔵庫なんだよね。ただそこに在るだけで人々や魔物を魅了する特異点なわけ。冒険者とかもダンジョンって聞いたら危険だと知りつつ探検しようとするじゃん? 魔物は名前の通り魔力の歪みから生まれる生物だから、より高い魔力の純度と量を欲してダンジョンに住み着くの』
(じゃあダンジョン殺しってのは人間とも魔物とも違う存在ってことか)
『ベースは魔物だと思うけどね。んで、それを使役してるのが厄介な異端聖問教会っていうカルト教団らしいよ。災厄の元凶はダンジョンなのだー! って布教してるヤバい連中』
(つまり危険地帯を潰して世界を平和にしようってことだよな? 話だけ聞いてると、あながち間違ってないような気もするが……)
『サジンは分かってないなぁ。そこにダンジョンがある。だから潜るというチャレンジ精神の理論。つまりダンジョンは愛と希望とロマンの産物なのだぞ☆』
どう考えてもヤバいのはコイツだと思うのは気のせいだろうか。
しかし俺も男児故か、云わんとしていることは少し理解できてしまう悲しい性。
(えーっと、まぁ大体わかった。どっちにしても転生したばかりなのに、むざむざ殺されるのは御免だ――)
『お?』
(俺はこのダンジョンを強く、大きく、育てる。はっきりとした目的ができて良かった)
爺ちゃんのようになりたい。
俺は俺が誇れるモノを創り上げて、この異世界で新しい人生を全うしてやる。
白は200色あんねん