2つの式
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そういえば、式が移動していることを教えてくれたのは弟だった
どこから来ているんだろう? と話したときに、知ってると弟が言ったのだ
付いていけば分かるよ、と言うので、一緒に式のあとを付けた
2階にある部屋に要件を持ってきた式は、意図が伝わったと分かるとスッと消えた
弟は、消えてない、と階段へ向かう
階段から下を見ると、式がするすると階下に降りて行っていた
弟は足音を殺すこともなく、いつも通りに階段を駆け下りる
慌ててそのあとを追いながら、驚かせたら消えるんじゃないかとヒヤヒヤした
けれど、式は振り返ることもなく気にした様子もなく、階下を滑るように歩き仏間の入り口で消えた
弟によると、消えるのは大体いつもこの辺りで、人がいると避けて別の入り口で消えるのだと言う
それから弟は鴨居を指し示した
そこには我が家の家紋、左三つ巴が彫られている
額に同じ紋があるから、うちと同系列の神社から何らかの繋がりをもって来ているのだろうと弟は言った
どうしてうちなのかは分からないけど、と
壁に貼った左三つ巴の紋を見ながら、弟がいなければ今も式を見ることはないのかもしれないと不思議な気持ちにさせられる
式はそこにいて当然のものだったけれど、いなくても忙しさに紛れて、新しい当たり前に埋もれてしまいそうだった
6
そんな式が、ひょんなことから見えなくなった
朝目覚めると、時折現れる式がいて、あぁまたかと思いながら起き上がった
式は困っているようで、何だろう? と寝ぼけながらそちらを見遣る
すると、別の式が式を羽交い締めにしていて、何故かどちらも困惑しているように見えた
どうしたらいいのか分からなくて、とりあえず手近にあったキーホルダーの鈴を鳴らした
途端、2つの式はフッと消えてしまった
一瞬、夢かと思った
またベッドに横になるが、どこか気持ち悪く感じてお香を炊いた
お香を身体に浴びてから、再度ベッドに寝転がる
変だとは思ったが、またそのうち式は現れるだろうと思っていた
いつもなら、1週間ほどで式はまた現れるのだけど、4日目くらいでやきもきし始めた
不思議な現れ方をしたのだから、何かあっても良いのに、何もないのがもどかしく感じた
そこで、弟に相談をしてみることにした
最近、式は来た? とメールをすると、来たよー。といつものような返信が返ってくる
いつ? と聞くと、1週間くらい前だそうだ
また現れたら教えて欲しいと送ると、?(クエスチョンマーク)が送られてきたので、事の次第を連絡した
弟は、もう1つはどこのかと尋ねてくる
そういえば紋は何だったっけ?
三菱のような紋だったと思うが、あまり覚えていない
弟からは、その紋がある神社に行けば何か分かるかもしれないよ、と返信が来た