式とポーター
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式が見え始めたのはいつからだっただろう?
物心付くより後だった気はしている
ある程度分別もついて、ある程度行動範囲が広がった中学生くらいの頃だっただろうか
年も近かったから、弟も見えると分かってからは良くその話をした
式は難しいことは頼まないし、家で出来ることが多いけれど、2人で出かけるから、と親から特別に小遣いを貰ったこともある
兄には見えることは話さなかった
何となく、そんな素振りが見えなかったから
彼が見えてたし聞こえていたのだな、と確信したのは、部屋に結界を貼り始めたからだ
無意識的な結界だったのかもしれないが、そのおかげで式が困っていたことが分かった
そして、結果的にこちらに役目が廻ってくることになった
弟とはその時に初めて、見える話をしたように思う
家族、兄弟よりも近しい、まるで双子のような感覚を彼には覚えていて、それまでは言わないでも勝手に見えているのだろうと決めつけていた
一緒に式のいる方向を見ながら、式が困っているね、と言うと、式と呼んでいるの? と驚いたように弟が言った
そこで、お互いがあれをどう見ているのかを話したのだ
平安の陰陽師のようだと言うと、彼はむしろFBIやスパイのようだと言った
彼は、あれをトランスポーターと呼んでいた
あのときは運び屋という意味かと思ったが、瞬間移動という意味だったのかもしれない
長いので、良く略してポーターがさ、と話してくれることもあった
4
兄はどうして、見えることが受け入れられなかったのだろう?
兄には式がどう見えているのだろう?
彼は、見えている自分や弟のほうが正常に見えるほど、おかしなことをしているように見えた
部屋に絵を貼るのはまだいい。けれど閉じこもってブツブツとお経を唱えていたこともあって、さすがに変だと思った
見えることなんて言わなければ分からないのだから、式も特別難しいことを頼んでくるわけじゃないのだから、そういうものかと受け入れればいいのにと思っていた
兄は普通に囚われすぎて、余計に普通じゃいられなくなっているような気がした
仕事の都合で家を出ることになったとき、つい弟に兄のことを頼んでしまったが、彼は飄々としていて、あのままでも問題ないよと笑っていた
今でも弟とは、ときどき式の話をする
弟がポーターと呼ぶ言い方が、軽々しくて好きだった