はじまり
1
朝目覚めると、額に左三つ巴の家紋を印した式が控えていた
あぁ、またかと起き上がる
式は自分が認知されたことを悟ると、目も合わせずに消えた
時計を見ると8時だった
お腹も空いていないし、身体も軽い
これはこのまま行けということだなと、少しのんびりと身支度をして氏神さまへお参りに行くことにした
式、と呼んではいるが、あれはもしかしたら使い魔なのかもしれないとも思う
額を避けて長く垂らした髪に、額には赤い左三つ巴の紋。陰陽師の着るような平安の白い衣装を着ている
格好の見え方は人それぞれ違うらしい
弟は黒いスーツとサングラスで、大体壁に背中を預けてトランシーバーを持っていると言っていた
彼はスパイ映画が好きだから、その影響かもしれない
短い髪だが額が見えて、小さな左三つ巴の赤い紋が見えるのは同じらしい
平安の衣装を着ているから、式と呼んでいたが、弟のような格好だと、使い魔と呼んだかもしれないなと思う
喋らないのも同じで、それでも何となく意図は分かる
とりあえず今回は顔を見せに行かないといけないらしい
2
氏神さまは、ここから2駅隣にいらっしゃる
市、全体を統括されている、とても大きな神社だ
式について分かっていることはあまりないけど、額の紋が神紋と同じであることと、神紋を介して移動しているらしいことは分かっている
我が家の家紋は神紋と同じで、彼らが現れたり消えたりするのは家紋の近くだった
もう今は、家紋のある家も多くないのかもしれない
家を出たあとに一切家紋を置かないことも考えたが、何となく置かないといけない気がして壁に貼っていた
神さまも困っているような気がしたからだ
式を拒絶するのは容易くて、実際兄は部屋にお手製の絵を飾って結界を貼っていた
実直な彼は、神さまの声が聞こえることも、式が見えることもイカれたこととして受け入れ難かったのだと思う
おかげで部屋の前で困っている式を何度も助けることになった
家を出た今はきっと、弟が助けているのか、こちらまで飛んできているのか…
そんなことを考えているうちに神社へと着く
まだ店もやっていないからか、人はまばらだった
いつものように1礼をして鳥居を潜り、蓮池を渡ってお参りをする
ちょうど朝の勤行か何かで、祈りを捧げられているところだった
お参りを済ませると、頑張れ! というように後ろから太鼓の音が追いかけてきた
頑張れじゃないよ、などと思いつつ、役目を果たそうと神社をあとにする