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戯れ言 無知な中学生と、とうだいと・・・・・・

作者: とららん

今回は心疾患兄妹編ではなく、私個人の体験談になります

 これは私の懺悔と言っても良い物だ。 

 

 私が中学生に入った頃、叔母が見合をした。

 叔母と私は10才ほどしか離れていなかったため、姉と呼ぶよう子供の頃から言われていた。


 心疾患を持つ妹が入院中の間、私は祖父母の家に預けられていた。

 そのことから、叔母は本当の姉のような存在だった。

 姉も年が近い甥で有る私を弟のように可愛がってくれた。

 そんな姉が見合をすると聞いて、姉が遠くへ行ってしまうような複雑な気持ちだった。

 

 姉の見合相手は愛想が無い寡黙な男だった。私も挨拶をする程度で一度も会話をしたことがない。

 そして、印象的だったのは恰幅が良く頭が禿げていたことだ。

 正直、私は苦手だった。

 一応、親戚の集まりの際に曾祖母にも挨拶もしていたが、それ以上何も解らない得体の知れない男と言うイメージが多感な時期の私には付いて回った。

 

 そんな二、三度の見合が続いたある日。

 茶道の先生だった祖母が茶室へ私を呼び出した。

 私も厳かな部屋の空気に思わず祖母の前で正座をする。

 

 祖母は娘の見合が嬉しいのか、上機嫌で私に問うた。


「お姉ちゃんがあの人と結婚したらどう思う?」


「嫌だ!!!」


 部屋の外にまで聞こえるほどの全力否定。ワザとでは無い。心底気持ちを込めて私は否定した。


「何でダメなの?」


「ハゲは嫌だ!」


「ハゲてても東大出ているのよ!」


「灯台出てても嫌だ。海坊主じゃん」


 私は東大を、灯台と勘違いし、彼が灯台で働いていて、そこから来たのだと思い込み、姉が遠くへ行ってしまうことに対して不安を覚えた。


「日本一頭の良い大学を出ている人なのよ」


「そんなに頭の良い人が、なんで灯台で働いてるんだよ」


「違うの、東大出ていてハゲてても頭が良いのよ!」


「灯台から来たのは良いけど、ハゲは嫌だ! ハゲは嫌だ! 海坊主は嫌だ!」


 私は、灯台とは頭の良い人が働く場所だと先入観を持っていた。

 そして、結婚すれば姉が遠くへ行くことがとても嫌で怖かった。

 漫画で言えば、某るろうにの義弟並に駄々をこねていた。


「とにかく、ハゲてても日本一頭の良い大学が東大なの。そこを卒業した人なの」


 そこで私は初めて、東大が大学校だという意味を知った。

 だが灯台、ハゲ、海坊主と言うロジック、先入観が私の中で出来上がってしまっていたのだろう。


「東大って偉いの? でもハゲだよ。海坊主が姉ちゃんと結婚するなんて嫌だ!」


「東大を出た人と結婚できるなんて、幸せなことなのよ。ハゲててもお祝いしてあげて」


 愛想が無く寡黙すぎる禿げ頭の男の印象は、子供の頃の私に取っては最悪なものだった。

 悪い人では無いのだろうが、何となく子供なりに感じ取った不気味さが漂っていた。

 

 私は部屋を出てしばらくすると、見合相手の男は俯いたまま帰って行った。

 後から聞いた話しでは、私と祖母の会話は、祖父や当人達、関係者が結婚の日取りを話して居る最中で筒抜けだったため、かなり気まずい雰囲気になっていたそうだ。


 数日の後、姉と男は話しあった結果、見合は破断した。


 だが事の顛末を知った母は怒り狂っていた。

 

「なんでアンタは東大と灯台を間違えるの!」


「東大何て知るか! それに最初はとうだい出たって言うから灯台で働いている人かと思ったんだよ。ってか、それよりハゲだったんだよ!」


「だからって、その人の東大卒ってアドバンテージやアイデンティティをハゲの一言で一蹴しちゃったのはダメでしょ! 相手も好きで禿げた訳じゃ無いでしょうし」


「何か、反射的にハゲに姉ちゃんが取られるのが嫌だったんだよ!」


「確かに婆ちゃんもハゲてても東大出ているって発言もどうかと思うわ。アンタに聞いたのは完全に失敗だったわね」


「だって、よく解らないけど、何だか嫌だったんだもん。全然俺と話さないし」


「まあ、甥っ子って立場になるからね。扱い困ったんでしょ。子供がそんなに嫌がったら、相手も萎えるわよ」


「何かゴメン・・・」


「ああもう、しょうがない。ハゲてたのは事実だし、ただ、ハゲを受け入れるほどの器がまだアンタに無かっただけだってこと何でしょう。まあ、このお見合いぶっ壊したのは間違いなくアンタと婆ちゃんだろうね・・・アンタ、婆ちゃんから他に相手の良い所聞いた?」


「ううん。ハゲてても東大出てる。日本一の学校卒業しているって事しか言ってなかった。何の仕事をしているのかとか、どう言う人なのかも聞いていない」


「ああ、婆ちゃんも東大卒って言うのに目がくらんで、それ以外見て無かったってことか・・・・・・」


 頭を抱えた母が深い溜息を吐いた。


「取りあえず、身近な子供を敵に回したらお見合いは終わりだってことで。アンタも反省したなら人を見た目で判断しないことね」


 小学校を出たての私には、東大の価値など解らなかった。今でもどう言う物かは具体的に解らない。

 ただ今言えることは、ハゲを理由にその人の今までの人生、人間性を否定してしまったことへの後悔と罪悪感が今でも残っている。

 東大に入るため、頭がハゲるくらい苦労したのだろう。仕事も頑張ったのだろう。

 まだ無知で精神的に幼い私は、姉が取られるというワガママから、彼の全てをハゲの一言で否定してしまった。なんて残酷な真似をしたのだろう。

 

 その時から私は誓った。どんな状況であろうとも、ハゲを理由に相手を傷つけるような事は言わない人間になろうと。東大と灯台を間違えないようにしようと。

 ただ、一つだけ付け加えるのならば、相手も私や他の子供達にもう少し愛想が良ければもっと別の道があったのかもしれないと時々思う事がある。

 

 そして、子供は夢邪気で無知で残酷な生き物だと、私はかつての自分の行いに戦慄するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 とららんさんとおばあちゃんとの問答が面白すぎました。 [一言] 最後まで読んだ上で私も反対です。 いくら東大といえど、愛想のないハゲが20代半ばくらいの女性と付き合うなん…
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