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 部屋へと戻ってきた私は、アメリアさんが淹れてくれたお茶を飲んでほうっと息を吐く。


 この、暖かさ……落ち着く。熱すぎず冷めすぎずのちょうどいい温度。体をじんわりと暖かくしてくれる。まるで今までの緊張をほぐしてくれるようで。


「アメリアさん、ありがとうございます。とても美味しいです」

「それはよかったわ」


 アメリアさんは柔らかく笑ったあと、空になったカップにお茶を注いでくれた。それにお礼を言って、また一口飲む。


 ああ、私もこういう風にお茶を淹れられるようになりたいな。それで今の私のように、誰かの癒しになれたら嬉しい。


「ユヅキちゃん。私はジオディスカーラ様のところへ行ってくるわ。あなたはここでゆっくりしていてね」

「でも……」

「私からのお願いよ。ここで待っていて」

「……わかりました。すみません。お願いします」

「ええ。できるだけすぐ戻るわ」


 笑顔で部屋から出ていったアメリアさん。扉が閉まるのを見届けてから、カップを置いて背もたれに思いっきり体を預けて天井を見つめる。


 食い気味にお願いと言われてしまったから引いたけど……たぶん、私に聞かれたくないこととかあったんだろうな。さっきジオさんはグランさんに話があると言っていたし。


「……」


 それがなんであれ、私は魔族の人たちを嫌いになることはないだろう。


 なぜかそれだけは断言できる。


「ただ……」


 みんなが怪我や苦しい思いをしないといいなとは思うけど。だって痛いのも苦しいのも、辛いし悲しい。


 私は目を閉じて、息を大きく吸って吐き出す。そして座る体勢を正して残りのお茶を味わった。



           ***



 お茶を飲み終わってしばらくしてから、少し疲れた顔をしたアメリアさんが部屋へと戻ってきて「ユヅキちゃん。ごめんなさいね。これに着替えてくれないかしら」と若葉色のワンピースと生成り色のケープを渡された。わけがわからずアメリアさんと服を交互に見てしまう私に、申し訳なさそうに眉を下げるアメリアさん。


「本当にごめんなさいね。何も聞かずに着替えてくれないかしら」

「……わかりました」


 私は頷き、着替えにいく。そして着替えたまではよかったけど、今までにない軽さで本当に服を着ているのか不安になり全身鏡で何度も確認してしまった。でも着慣れると、着心地がよすぎてこれ以外の服が着れなくなりそうだ。


「お待たせしてすみません。着替え終わりました」

「大丈夫よ。ユヅキちゃん、とっても似合ってるわ」

「ありがとうございます」

「あとこれもつけてね」

「ブローチ、ですか?」

「ええ」


 シルバーの花が咲いたような形の中心で美しく輝く紫色の真珠。その真珠がジオさんを彷彿とさせて、なんだか少しつけづらい。


 だって、綺麗すぎる……。私のようなちんちくりんがつけていい品ではないと思うんだ。


「……」

「ユヅキちゃん。そのブローチは気に入らなかったかしら」

「あ、いえ、その……なんだかジオさんみたいだなと思ったらつけづらくて。ブローチはとっても綺麗だと思います」

「そう……そうよね。だから言ったのに。こんなの独占欲のようだわ」

「え? あ、ごめんなさい。最後のほうが聞き取れなくて……」

「ああ、気にしなくて大丈夫よ。さ、とりあえずそれはつけないでジオディスカーラ様のところへ行きましょう」

「あ、はい……!」


 アメリアさんに手をとられ、優しく引かれる。それに抵抗せずそのまま着いていく。



           ***



 ジオさんのいる部屋へと着いて、アメリアさんがノックしてくれてジオさんの許可のあと中へと入った。そして部屋へと入った私を、ジオさんは優雅に見つめて微笑んだ。


「似合っている」

「ありがとう」

「着心地はどうだろうか」

「とっても軽いし肌触りもよくて好き。それにデザインも派手すぎなくて落ち着く。ジオさん、この服をありがとう」

「どういたしまして。ただ、ブローチはユヅさんの好みではなかっただろうか」

「あ、いや……」


 ブローチのことを聞かれて慌ててしまう。油断していた。そりゃあ当たり前に聞かれるよね。だってアメリアさんに預けて服は着てるのにブローチだけつけてないんだもの。でもつけづらい。綺麗すぎるんだ。ここは本当のことを伝えるべきだろう。だがしかしそれは駄目な気がする。でも……。


 心なしかしょぼんとした雰囲気で私を見つめるジオさんから顔を逸らして、だらだらと汗を流す。


 息を吸って、ジオさんのほうを向く。そして恐る恐る口を開く。


「綺麗で、可愛いとは思うの。ただ……ブローチの紫色の真珠が、ジオさんを彷彿とさせてつけづらくて。あまりにも綺麗すぎるの」


 私はブローチを持ったままだったけど下を向いて顔を隠す。すると少しの間のあと、ふっと小さな笑い声が聞こえた。だからつい顔を上げてしまった。


「ジオさん?」

「すまない。ユヅさんが愛らしくて、つい零れてしまった」


 顔を手で押さえて天井を見たい気持ちを、どうにか沈める。落ち着け。落ち着くんだ。ジオさんはこういうところがある。気にしてはいけない。


「だから、ごめん。ブローチを私はつけられない」

「そうか。だがそれには守りの効果を付与してある。だからつけてもらえるとありがたい。駄目だろうか」

「守り……」

「ああ」

「それじゃあ、つけるね。ありがとう」


 私の返事を聞いたジオさんは満足そうに笑って、ジオさんの隣に立っていたグランさんは微笑ましそうに私とジオさんを交互に見ていた。そして私の隣にいたアメリアさんかどんな表情をしていたのかはわからない。


「では、君の聞きたいことについて話そう」

「っ……はい」


 ジオさんの雰囲気が変わり、部屋の空気がぴりっと緊張する。私は背筋を正し、頷いた。

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