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 ジオさんと一緒にお城へと帰ってきて、どこからか私を呼ぶ声が聞こえてきょろきょろと見回してみる。すると入り口のほうから、グランさんとアメリアさんがこちらに向かって走ってきている姿を見つけた。


「グランさん! アメリアさん!」

「ユヅキちゃん!」

「ユヅキ!」

「わっ! ととっ……」

「大丈夫か? お前たち、勢いそのままに抱き締めるのは危ないぞ」

「大丈夫。ジオさん、ありがとう」


 驚いたせいで心臓はとっても元気に跳ねてるけど、とりあえず大丈夫。倒れなくてよかった。


 今何があったのかというと、グランさんとアメリアさんが左右に別れて私を抱き締めたんだ。だけど勢いがすごくてグランさんとアメリアさんを連れて後ろに倒れそうになった私。それを私のすぐ後ろにいたジオさんが支えてくれて倒れずにすんだというわけです。はい。


「申し訳ありません。ですがユヅキちゃんが心配で。ごめんなさいね。大丈夫だった?」

「俺も心配で、ユヅキが帰ってきた気配がしたものだから。ごめんな、ユヅキ」

「大丈夫ですよ! そんなに気にしないでください。私もご心配をおかけしてしまったみたいですみません」

「無事ならいいの。よかったわ」

「ああ。本当によかった」


 そう言った二人は私をぎゅうっと抱き締めた。その腕が、体が少し震えているのに気づいて私も抱き締めるように腕を回す。


「ただいま、です」


 静かにそう言うと二人の肩が少し跳ねて、それから同じタイミングで「おかえり」と優しい声で伝えられる。それが嬉しくて、少しだけ腕に力を入れる。


「アメリア。ユヅさんをお風呂へ。そのあとは泉で浄化を」

「わかりました」

「グランは私と共に。話がある」

「わかった」

「ユヅさんは、あとで話をしよう。君も聞きたいことがあるだろう」


 ……聞きたいこと、ある。


 私はジオさんを見つつ、力強く頷く。するとジオさんはふっと笑って「では、またあとで」と言ってグランさんと一緒に歩いて行った。


「それじゃあユヅキちゃん。私たちも行きましょう」

「はい」


 返事をしてアメリアさんに着いていく。そしてお風呂へ向かっている途中で聞いたけど、私が出掛けて少ししてからなぜかわからないけど胸騒ぎがしたらしい。それで追いかけようとしたところをジオさんとグランさんが見つけてアメリアさんに理由を聞き、私のところへジオさんが来てくれたとのことだった。それからアメリアさんの胸騒ぎはかなり当たるらしく、そのせいでみんな私のことが心配だったのだと教えてもらった。


 ……心配してくれていたみんなには申し訳ないけど、その心が私は嬉しかった。まるでお父さんやお母さんみたいで。無事に帰ってくることができた私を抱き締めてくれるその腕、その温もりに安心したの。


「……」


 考えていたからだろう。ふっとお父さんとお母さんの顔が過って、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされる。


 痛いな。

 苦しいな。


 きっと、お父さんとお母さんは心配してる。それであっちの世界にいない私を必死に探してる。ああ、でもあっちの世界にいない私の記憶が二人からなくなってるってこともあるかもしれない。そうしたら、私はどこへ帰ればいいんだろう……。


 心配しないでほしい。

 私は、大丈夫だよ。


 悲しんでほしくない。

 私を、忘れないで。


 たくさんの言葉が頭を埋め尽くしていく。悲しみや不安で押し潰されてしまいそうだ。


 あの国では、こんなことなかったのに。ここは優しさに溢れているからだろうか。苦しくて、悲しくて……辛い。


「ユヅキちゃん……っ、もう大丈夫よ。私たちが守るからね」

「う、っ……」


 ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

 頬を伝う涙は終わりを知らない。


 私を抱き締めてくれるアメリアさんの腕は優しい。その優しさが今はただ辛かった……。



          ***



 あれからしばらく泣き続けてアメリアさんに迷惑をかけてしまった。申し訳ない気持ちのままお風呂へ入って、泉で身を清めた。そしてアメリアさんにさっきのことを謝罪すると柔らかく笑って、私の頬を包み目の下をそっと撫でた。


「気にしなくて大丈夫よ。だって知らない世界の知らない土地で頑張ってきたんだもの。いろいろな想いがあったでしょう。よく今まで我慢したわね。大丈夫よ。必ずあなたは元の世界へ帰れる。私たちが返してみせるから」

「……ありがとうございます」

「ええ。でも、それまではあなたに我慢を強いてしまうわ。だから嫌なことがあったら嫌と言って。でないと私たちは何が嫌なのかわからないから」

「はい」


 私は小さく頷いて、笑って見せる。でないと、また泣いてしまいそうだったから。


「……本当に、大丈夫よ」


 頬から手が離れて、ゆるりと抱き締められる。


「私の予感は当たるの。いい? 『あなたは帰れる。あなたのご両親はあなたを忘れていない。あなたの無事を祈り、帰りを待っている』と。だから大丈夫よ」

「っ……はい!」


 アメリアさんは私の心の内に気づいていて、それを取り除いてくれようとしてくれたのだ。


 その優しさがさっきとは違い、心の痛みを和らげてくれた。


 帰れるように、私も今以上に頑張る。だけど無理しない。心が悲鳴を上げる前に、少し立ち止まって休む。そうしたら、休む前より頑張れる気がする。


 アメリアさんを抱き締め返して、それから離れて……にっと元気よく笑った。

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