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 あれから全員を順番に浄化して、最後の一人が終わったところでグランさんが私を抱えて泉まで走ってくれた。その道中でグランさんは「昨日のようになると大変だからな! お前さんが苦しむ姿はもう二度と見たくない!」とそれはそれはすごい速さで泉まで連れてきてくれた。そして私はグランさんにお礼を伝えて……いや、伝えてる途中に早く入ってくれと言わんばかりにぐいぐい背中を押すグランさんに負けて言えずに終わった。だから急いで泉で身を清めてきたわけだけども……。


「何をしてるんですか?」

「見ないように両目を手で隠して、念のため膝に顔を埋めてるんだ。これなら絶対にお前さんの裸は見えない」

「えと、ありがとうございます」

「おー。着替え終わったら言ってくれ!」


 グランさんって大きな体だけど、こんなに小さくなれるんだなあ。


 そっとグランさんの横でしゃがんでみる。


 ……あ、そうでもない。グランさん小さくないや。いや、それが当たり前かもしれないけど。うん。私より大きい。私が立ってるときは小さいと思ったのに。


「終ったか?」

「はい。終わりました」

「そうか……っ!」

「グランさん。やっぱり大きいですね」

「お、おお」


 驚いたような顔をしているグランさんは目をぱちぱちさせながら私を見ている。実は私も思いの外グランさんとの距離が近くて驚いている。ただ顔には出さないよう頑張っているけど。今ならさっき言い途中だったお礼を伝えられる気がする。


「グランさん。ここまでありがとうございます。おかげで早く入れました」

「どういたしまして。ユヅキ。俺たちを助けてくれてありがとうな」

「いえ。グランさんたちが無事でよかったです」

「お前さんは、本当に……」

「わっ!」


 またわしゃわしゃと頭を撫でられる。その瞬間、さっきのグランさんの表情が頭を過った。


「あ……」

「どうした? あ! もしかして痛かったか? すまんな!」

「いえ、痛くないですよ! 大丈夫です! ただ……さっきグランさんが少し悲しそうな表情をしていたのを思い出したら、つい声が漏れてしまって」

「痛くはないんだな?」

「はい。痛くないです」

「……」


 グランさんは私から顔を隠すように違う方向を見た。だけど見えてしまったグランさんは、少し眉間に皺を寄せていた。


 あ、これは失言した。グランさんに何か嫌なことや辛いことを思い出させてしまったかもしれない。もっと言葉を選ぶべきだった。


「お前さんは……」

「はい」

「異世界から来ただろ? 元の世界に俺たちのような存在はいたか?」


 その問いに、瞬き数回。そして考える。


「……ごめんなさい。わからないです」

「わからないのか?」

「はい。わからないです。私が知る限りではいないですが、知らないところには存在しているかもしれません。だから私の答えは、わからないになります」

「そうか……そういう感じなんだな」


 こちらを向いたグランさんは、困ったように笑っていた。


「ありがとうな。お前さんの存在に、俺は救われる。それから他の連中もな」

「私も……ありがとうございます。グランさんたちのおかげで、私は生きていられます」


 グランさんの言葉に、なんと言えばいいのかわからないけど……こう、ぐわっと何かが溢れてくる。それをそのままにお礼を伝え、言い終わるのと同時ににっと笑う。


 捨てられた私の命を救ってくれたのがジオさん。

 私の命を大切にしてくれるのがグランさんやアメリアさん、他の魔族の人たち。


 だから私は ーー。


「魔族のみんなが大好きですよ!」

「っ……! ふはっ。そうか! 大好きか!」

「はい!」

「でもな、全員が優しく安全なわけじゃない。お前さんを意味もなく傷つけるやつもいる」

「それじゃあ、ここにいる魔族のみんなが大好きです! 他は知らないのでなんとも言えません! それに人間だって一緒ですよ。みんな優しいわけじゃないですし……他の誰かにはいい人であっても、私にとってはそうじゃないっていうこともあります」

「……」

「前にも話しましたけど、初めてグランさんに会ったとき怖いって思ったんですよ。体が大きくて表情が見えなかったというのと、私の知る限りでそういう人がいなかったのが理由です。勝手に外見だけで何をされるのか想像して怖がって、ひきつった笑顔でグランさんを迎えたんです」


 あの日のことを思い出すと、恥ずかしさと申し訳なさが同時にくる。確かに危機感とか持つのは大切だと思う。だけど外見だけで人となりを決めつけるのは間違っていると、あの日そう思った。


「グランさんは、私と目線が合うようにしゃがんでくれたんです。それで優しく笑って、穏やかな声で私に話しかけてくれたんですよ」

「……そうだったか?」

「はい。だから私はあのときから魔族の人たちが怖くないんです。」

「……」

「初めて会った魔族の人がグランさんでよかったです。もし違う人だったら、今の私はいなかったかもしれません。グランさん、ありがとうございます。私はあなたに出逢えてよかったです。それから初めて会ったときに怖がってごめんなさい」

「っ、お前さんは、本当にいい子だな!」

「う、わっ……!」


 手が伸びてきたからまた頭を撫でられるのかと思ったら、脇腹を掴まれて持ち上げられた。そしてぐるんっと景色が回り始める。


「わっ! すごい! はやっ……!」

「がはははははっ! はっきり言う! 俺は人間に怖がられるのは慣れてる! だけどな! 慣れていても、苦しいし辛い!」

「グ、ランさん……?」


 徐々に回る速度が落ちていき、そして止まる。私は持ち上げられているので少し見下ろす感じでグランさんを見る。


「恐怖も媚びもなく、ただ俺に笑い返してくれた人間は……お前さんが初めてだったんだ。それから他愛ない話をしてくれるのも、俺たちを浄化してくれるのもな。全部、お前さんが初めてだ」

「……」

「お前さんが無事で、本当に……よかった」

「グランさん……泣かないで。大丈夫ですよ」


 大粒の涙がぼろぼろと瞳から零れて地面に色をつけていく。私は零れ続ける涙を拭こうと、グランさんの目の下に手を伸ばす。


「ユヅキ……俺たちがお前さんを守るからな」

「ありがとうございます。私も聖女の力でみんなを守りますね」

「ありがとうな。頼もしいよ」


 泣きながら笑うグランさんに、私も泣きそうになる。だけどぐっと抑えて今できる一番の笑顔をする。


 ……小春ちゃんが無事かはわからないけど、グランさんたちが穢れに身を包んでいた理由はわかった。たぶんあの国の人たちが追い出すようにグランさんたちをここへ帰したんだ。あの国の人間ならやりかねない。


 人間に協力してくれているのは魔族の人たちの善意なのに。こんなことをし続けていたら、魔族と人間の亀裂が大きくなってしまう。それすらあの国の人間はわからないというのか。


 絶対に私はグランさんたちをこの力で守ろうと決めた。

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