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消える前に  作者: イチカ
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第一節

木漏れ日に照らされたベンチが目に入る。

よく手入れされた舗道に並木道、綺麗な花々がこれでもかと顔を広げている。

その光景で住民がどれほどここを大切にしているかよくわかる。


「綺麗な場所だな…」


そう呟きながらベンチに腰をかける。そこから見える景色もまた格別だった。

おそらく居住区に繋がるであろう階段、その階段を囲うように咲いている花々。

多くはないが色鮮やかに塗装されたレンガの屋根。

時計台のあるあれは教会だろうか、広場に数人の住民と噴水も見える。

ああ先ほどから感じていたこの匂いは、やはり磯の香りか。

木々を揺らす風も心地いい。


「ここからの眺めって最高ですよね」


凛としてどこか楽しげな声が後ろから聞こえてきた。


「私もこの場所大好きなんですよ!春になればここら辺の木に花が咲いてもっと綺麗になるんです!」


振り返ってみると、そこには、カゴを持った女性が立っていた。

蒼い眼には空のような輝きがあり、サラサラと流れる甘色の髪は太陽の光を受け宝石のようだ。

少し焼けた肌から彼女の活発さが窺える。


「花ですか…それは綺麗そうですね…」


上手く言葉を返せない。


「え、だっ大丈夫⁉︎」


慌てた声だったが当たり前だ。なんの前触れもなく涙が頬を伝っていたからだ。

だが、どうして泣いているのかはわからない。そのせいで言葉がうまく紡げなかった。

涙を拭い向き直る。


「すみません。大丈夫です。」


そう声をかけるが、彼女はうーんうーんと腕を組んで左右に首を傾げてる。

どうやら自身に過失があるのか、そうでないかをぶつぶつと審議しているようだ。


「何か変なこと言っちゃったかな…言葉ってナイフにもなるって言うじゃん?でもどの言葉で切っちゃったかな…ベストコミュニケーション!って感じだったけど…」


「あのー大丈夫ですよ。あなたのせいじゃありませんので」


「あれ?そうなの?」


「はい、ええと…そう!景色がすごい良くて感動しちゃってそれで泣いちゃったていうか…」


頭をかきながらなんとかそう答える。

苦し紛れに出した結論ということに彼女も気付いたのだろう。少々訝しむ表情を見せたがそっかと言い直ぐに微笑んだ。


「この辺じゃ見ない顔だよね?旅の人かな?それだとちょっと若すぎるかな…」


「えっと僕は…」


そこまで言って言葉に詰まってしまった。

名前が思い出せない…それだけじゃない…どうしてここにいるのか、どうやってきたのかもわからない…


「どうしたの?」


「すみません…何も思い出せなくて…」


不思議に思ったのだろう彼女から声を掛けてくれた。


「えっ⁉︎ホントに?記憶喪失ってやつかな」


「かもしれないです…」


「もしかしたらここに着くまでに酷い目に遭っちゃって記憶飛んじゃったとかかな…最近戦争も激化してるらしいし…」


一応自身で診てみたが外傷は無いし、これと言った異常は見受けられない。

記憶がないこと以外は…


「特に怪我とかはないです」


「じゃあ違うのかな…うーん…不思議なこともあるんだね。でも怪我がなくてよかった」


心底ホッとした声と言葉に彼女の性格が少し見えた気がする。


「じゃあ、私の自己紹介するね。私は、ティア。この先の果物屋で働いてまーす」


そう言いながらカゴの中身を見せる。色とりどりの果物が所狭しと入っていた。どれも美味しそうだ。

収穫からの帰宅中にベンチに腰掛ける姿が見えて、声を掛けてくれたそうだ。


「君はこの後どうするの?」


「…」


行く宛なんてない。というよりあるのだろうか?記憶が戻ればそれもわかるだろうが、そんな直ぐに戻るわけないだろうし…


どれくらい時間が経ったのだろう。一瞬だった気もするし、数分経っていたかもしれない。

よし!わかった!という一言で顔を上げた。


「この村に住もう!」


「…へ?」


「記憶が戻るまでこの村に住んでたらいいよ!私の家なら部屋余ってるし父さんも納得してくれるはず!あっ無料タダとは言わせないよ?しっかり働いてもらうんだから!」


「でっでも悪いですよ!」


「まだ若いのに遠慮なんかしないの!お姉さんに任せなさい!」


彼女の目は夕陽のおかげかそれとも自身の熱意のおかげか赤く燃えている。ように見える…

有無も言わせない勢いに圧倒されてしまい反論することもできず、


「よ、よろしくお願いします…」


と答えることしかできなかった。


「うん!じゃあ…っとその前に名前決めないとね」


確かに、これからこの村に住む(半強制的に)からには名前がないと不便だ。


「そうですね、どんな名前にしよう…」


と頭をフル稼働させ考えてみる。何か名前をつけてみろってなった時こんなにも難しいものだろうか?全然浮かばない…


うんうん唸っているとティアが小さく、


「…ハルエルって名前はどうかな?」


と案を出してくれた。


「ハルエル…」


その響きは口に出した瞬間ストンと心に落ち着く感じがした。あるべき場所に戻ったというような懐かしいというような…


「ティアさん!」


「なーに?」


ニコニコして次の言葉を待ってくれる。


「初めまして。僕はハルエルと言います。これからよろしくお願いします!」


そう言いながらティアに手を差し伸べる。


「うん!よろしくね!ハルエル君!」


ティアが手を握ってくれた。

とても暖かく心の底から安心するそんな握手。


「じゃあ、行こっか!」


「はい!」


そして手を繋いだまま伸びた陰から離れるように階段を駆け降りていった。

次は未定です。

一応考えてはいますがどうなることやら…

もうちょい設定練ってからにしようと思います。

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