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夜のしじま・前編
オーキッド侯爵子息と穏やかな夜。
温かいミルクを飲み、ご満悦といった表情で妹は最近の出来事をひとつひとつ父に聞かせた。久々に研究所勤めの父の顔を見られた高揚感と長い待ちぼうけによる睡魔とが入り混じっているせいで、ふにゃふにゃ何を言っているのか分かりづらいところもあったが、それには母と自分が補足を入れた。父の遅い夕餉が終わるまでそのおしゃべりは続いていたが、父はただ静かにその報告に耳を傾けていた。一通り話し終えて満足したのか、妹は再びこっくりこっくりと舟を漕ぎ始める。
母の膝を枕に寝息を立て始めたその小さな体に、そっと自身の上着をかけてやる父の眼差しはとてもやさしい色をしていた。