絶対禁止令
おうじさまvsおじょうさまwithおとうさまとおうじさまのおにいさま。はっぴーはろうぃん編。
末弟の婚約者であるイザベル・オーキッド侯爵令嬢は儀式に臨むかの如く、いつになく真剣にカーテシーをした。いつもの愛らしい笑顔はないが、所作はだいぶ板についてきた。
姿勢を戻した少女はおずおずと淡い菫色の瞳でこちらを見上げた。つられて隣を見ると、イザベル嬢の父、オーキッド侯爵が目を細めて大きく頷いた。少女はふわりと頬を綻ばせる。護衛と侍女も頬を緩めた。侯爵家の小さなレディとその健やかな成長を見守る大人たちを見るたび、第二王子は子猫の木登りを案じる母猫をいつも思い出す。
青い瞳を思い切り和らげた「ヘンリーおにいさま」の袖を引き、少女は笑い返した。
「お菓子をくださらないと、いたずらをします」
何やら物騒な挨拶である。上着のポケットを探り、末弟は縋るようにこちらを仰ぎ見る。首を横に振ると、末弟ヘンリーは窮したように眉を大きく下げた。だが、少女は頬を緩めたまま、彼にかがむようにおねだりした。末弟が素直に従い、少女が少し背伸びした。そして、末弟の頬に少女の唇がそっとやさしく触れた。その瞬間、末弟は爆ぜる勢いで頬を朱く染めて硬直し、侯爵は呼吸を停止して頭から見事な狼煙を上げた。
第二王子はかがんで少女の淡い菫色の瞳に目線を合わせる。大きく三度瞬く小さなレディに「そのいたずら、ヘンリー・ローと君のお父様以外にするのは禁止」と厳命した。





