曲がり角の先
末の王子様の騎士と王都エセルの人々。
王都エセルの規則正しく敷き詰められた硬いレンガ道を、馬で真っ直ぐと駆ける。目抜き通りの曲がり角の先を捉え、徐々に速度を落とす。レンガを激しく打ち鳴らしていた蹄は、ことこと、ことこと、と貴婦人のステップの如くしなやかで優美なテンポに変わった。
カラン、と軽やかな音が鳴る。カウンター前で精算をしていた客が息を呑む。片眉を上げた店主が「いらっしゃい」と声をかけてくれた。彼もまた扉を閉めて会釈を返す。
店のあちこちから――書棚越しの控えめなものから正面きって威風堂々と投げつけられるものまで――興味津々な視線が自分に、ではなく、上着に刻まれた王家の紋章に集中している。いつもの見慣れた光景だ。騎士は噴き出しそうになるのを堪え、愛想よく笑みを浮かべた。努めて声を低く、かつ、よく通る音程で出す。
「ご主人、例のブツは?」
「もちろん確保済みですとも」
目が合うと、店主も焦げ茶色の瞳に光を宿し、口端を僅かに上げた。
「そちらさまのご準備こそ如何ほどでございますか?」
「来月には万端整う寸法だ」
寄せては返すギャラリーのさざなみが大きくなったところで店主が大仰に頷いた。
「それはそれは楽しみでございますねえ、ヘンリー殿下もお嬢様も来月のお小遣い支給日が」
店主のノリの良さに騎士も努めて厳かな声で応じてみせる。
「ええ。それはもう。殿下は首だけではなく背も健やかに伸びてきましたし、お嬢様もますます可愛らしくおなりで。この頃はカーテシーも指先まで板についてきて愛らしさに磨きがかかりましたとも。『月刊猫ざんまい・猫まっしぐら号』をお二人がお小遣いを出し合って買うのは毎年の共同作業とはいえ、いつまでも大事にしていきたい行事ですな」
騎士は白い歯を見せ、片目を閉じてみせた。そして、目を丸くしているギャラリーに向け、恭しく騎士の礼を取ってみせた。
ほわり。物々しい空気は、外の目抜き通り同様、朗らかで清らかな春のものへと変わっていく。
騎士はからりと笑い、店内のざわめきが溶けていくのを見届ける。そして、来月にヘンリー殿下とその婚約者殿が来店する際の警備計画に関する封書を店主に差し出した。
王都エセル老舗書店『星の界』の初春恒例の光景である。





