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それはどんな花束よりも
お嬢様とお母様。
カッと目を見開いたり、悲しげに顔を伏せたりと小言で忙しくなった父をなんとか宥め、イザベルは母の元に逃げ込んだ。母は菫色の瞳を丸くし、可笑しそうに吹き出した。
「それは説明を省いたイザベルが悪いわね。もっと相手の気持ちや立場を考えなさい」
兄にも説教されたばかりである。気をつけます、と答えると母の手が頭を撫でた。
「そうねえ、一番嬉しかったのはお父様が温室を賜ったときかしら」
気を取り直して統計への協力を頼むと、母はおっとりと笑った。
父が博覧会での功績を認められ、王室から温室を下げ渡された話だ。父は丸ごと母に贈ろうとしたのだが、母がやんわりと断った。金と暇さえあれば研究に籠もることを好む父には王室ゆかりの温室の管理は向かないだろう、と。結果として、現在、その温室は王立魔術研究所に研究施設として貸与している。季節の花が咲く度に父に連れられて兄もイザベルも小さな頃からいつも足を運んだ。
「あのひとのひたむきな研究が認められてもちろん嬉しかったわ。でもね、季節の花を楽しむ気持ちを家族と分かち合おうとする気持ちが何よりもわたくしは嬉しかったのよ」
とろりと淡い菫色の瞳を和らげる母はなんだか眩しくて、可愛くて。イザベルも思い切り頬を緩めて頷いた。





