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いつしか王子様が
お兄様と爺や。
妹が嫁入りする遠い来年の秋を思って家令のアーネストが目元を潤ませるので、ニールはハンカチを差し出した。
「待て待てアーニー。泣くのはこのあとだ。あれは絵心ばかりはどうにもならなかったが、殿下が欲しがるようなものをついに刺繍できるようになったのだ」
妹は父と自分のハンカチとネクタイを毎日練習台に使った結果、基本に忠実に図案通りに裁縫も刺繍も編み物もできるようになった。そして、研究所の食堂でも資料室でもそれらを取り出しては父が目元を和ませていることが話題を呼んだ。
そこでヘンリー殿下が尋ねられたのだ。とても大切なものなのですね、と。「娘からの贈り物なので当然です」などと父が隠そうともせずおおっぴらに自慢をするものだから、殿下は青空に似た瞳を伏せて想いを馳せるようにため息をついたのだ。僕はまだもらったことがないので羨ましいです、と。
「ああ、やっぱり泣いたな。うん。愛の力という奴は偉大だ。うん? 違う違う、ハンカチのそれは花じゃなくて犬だぞ」





