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如何ともしがたい問題
お兄様と爺や。
茶を準備してくれた家令が「珍しいことですな」と口元をほころばせた。
目線で問う。彼は悪びれずにさらりと言った。若様のご機嫌なメロディーが廊下まで聞こえるだなんて珍しい日もあるもので、と。
口笛は外まで漏れていたらしい。噴き出しかけた茶を飲み干し、咳払いを一つ落とす。
「……あんなに小さかったのにあれも随分大きくなったなあと実感していたところだ」
「はい。咲き染めの花のように立派なレディになられて爺やも嬉しゅうございます。ですが、来年の秋はとても寂しくなりますね」
「……秋なんてまだずっと先だろう」
「お嬢様がそのネコチャンの膝掛けを若様に贈られたのも金色に輝く秋の頃でしたなあ」
家令はニールの膝上の丁寧に編まれた青い膝掛けに目を細めた。
「ネコチャンではない。賢いジャックだ。練習を続けて基本に忠実に編み物も刺繍もできるようになったのは立派だが……」
これは妹の一昨年の力作だ。今でも彼の読書時間を暖かく快適にしてくれる。潰れた黒猫や炭化したオムレツに見えるひしゃげた図形は、妹が図案を考えて刺繍したシャチの賢いジャックらしい。指で撫で、長く吐息する。絵心ばかりはどうにもなあ、と。





