会議は踊る、されど進まず
お嬢様とご友人。
「イザベル。あなた、学院中の生徒全員にポーカーで勝てるの? 勝率と自信は?」
「……半分くらいならばなんとか」
「はい、全然だめ。そんな中途半端な覚悟で我々の熱血エースを買い戻せるとでも?」
「返す言葉もございません」
「待って、グレイス。そもそも賭け事は校則で禁止されているでしょう? それに殿下はどこに行ったの? ほら、二人ともキング船長の冒険シリーズから離れて離れて」
とんとん肩を叩かれ、イザベルは振り返る。司書がにっこりと笑い、人差し指を唇の前に立てた。三人そろって深々と頭を下げた。放課後の図書室である。イザベルの贈り物大作戦再び、である。
時間を決めて参考になりそうな本をそれぞれ持ち寄ることをマーガレットが提案してくれた。何だかんだ言いながらも付き合ってくれる二人は本当に人が良いとイザベルはしみじみ思う。席に戻ると、提案者が薄藍色の瞳を煌めかせ本を掲げた。初等部時代に大流行したシリーズ『必殺☆風の料理人』だ。
「手料理を練習するのはどうかな? 小説や舞台だと、ヒロインも恋敵も熱血少年も料理とバトルで殿方の胃袋と心臓を清く正しく美しくがっちり掴んでいた気がするわ」
「そうね、メグ。卒業後の来年の秋にはイザベルも殿下との結婚を控えていますものね。しばらくは官舎住まいとはいえ、料理の練習は早すぎるくらいが良いのかも」
未来を心から心配してくれる友人にイザベルはへにゃりと情けなく眉を下げた。たおやかな白い両手を合わせ、グレイスは励ますように微笑んでくれる。
「まだ時間はたっぷりあるのだから、練習すればきっと成功しますし、新婚家庭も明るいものになりますよ」
良心の痛みに耐えられず、イザベルは両手で顔を覆った。
「ごめんなさい。王家の方に食べ物を手作りすることは固く禁止されているのです」
いつの世も暗殺はまず料理からというのが王家の常識だ。結婚後は王室が厳粛指導、徹底管理した王宮とオーキッド家の料理人がヘンリーとイザベルの食事を用意することが婚約決定の際に取り決められているのであった。グレイスが眉を寄せ、腕を組む。
「いっそのこと原点に戻って、イザベルのお父様にお願いしてお父様と殿下のお二人で食事に行っていただくのはいかが? イザベルが二人に気後れせず一挙解決では」
「なるほど、殿下の胃袋をぎゅっとできそうだ」
舅と婿、上司と部下である父と殿下を案じていたら最終下校を促す鐘が鳴った。





