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春よ、こい。
お嬢様とお母様。
自覚はあったのだ。一応。
右手と右足、左手と左足がペアで同時に前に出てしまうし、扉の取っ手を押すのか引くのか間違えてばかりだし、取り落としかけたフォークを持ち直したつもりが勢いよく跳ね、父の皿のふわふわオムレツに華麗に刺さったりもしたのだ。
「……浮かれています。嬉しさでどうにかなりそうです」
見かねた母に尋ねられ、イザベルは夢のような出来事を白状した。殿下から思いがけない贈り物とお誘いをいただいたのだと。耐えきれず両手で顔を隠す。頬が、熱い。
「これから忙しくなりますね」
指の隙間から見えた母は淡い菫色の瞳をとろりと細めた。卒業したらテビュタントも秋のお式もすぐですよ、と笑う。
「お父様にお願いして、春までに髪飾りによく合う、とびきり素敵な可愛いドレスを用意しましょうね」
母の白くたおやかな手のひらが、イザベルの髪をゆっくりと撫でた。





