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予告なしの贈り物
お嬢様と王子様。
箱を開けて、三度大きく瞬いた。やわらかい朱鷺色の花弁をふんわりと象った椿の髪飾り。青いベルベットの小箱に品良く佇むそれは、明かりを受けて、星のように淡い光を散らしている。美しさに視線が縫い止められる。熱いため息が零れた。
「これを、わたしに?」
イザベルは小さく首を傾げる。誕生日にはまだずっと早い。それに、婚約が正式に決まった頃に王室との誓約があったはずだ。税金で贈り物をするのは御法度だと。故に、贈り物はささやかな喜びを交換するのが二人のルールだ。
ヘンリーは形の良い唇の前で人差し指を立て、笑った。
「僕の収入では今はそれを贈るので精一杯なのは内緒だよ」
それから王子様は丁寧に腰を折った。少女の右手を恭しく取り、春に開かれる内々の晩餐会にこれを付けて来てくれるかな、と甘くねだった。
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このお話から始まる「春よ、こい。」は本編開始直前の晩秋から冬にかけてのイザベルとヘンリーのおはなしです。300字~2000字ほどの掌編を全25本お送りします。お楽しみいただけますように。





